テキスト | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。


絵にはほとんど初心の私。まず購入したものは「描き込み式の色鉛筆テキスト」と24色の色鉛筆。テキストに従って描いてみた。


青空に出会えて背伸び式部の実
連載小説「みつさんお手をどうぞ」37
 やっとみつさんの病状が安定したと電話があり、その日の夕方、ロイヤルホストで木元さんと待ち合わせたとき、俺の流星号はペガサスの如く軽々と宙を飛ぶように走った。嬉し涙が込み上げて視界が霞んで困った。居酒屋でバイトをしているときも、部屋で書いているときも、行きつけの中華店で飯を食ってるときも、俺はいつでも電話のコールを聞き逃すまいと気を配っており、何度も着信履歴を確認していたのだ。だが、木元さんの暗い顔を見た瞬間、手放しでは喜べない不安に襲われた。木元さんはまず、心配かけたことを謝ってから、話を始めた。
「まぁ、とうに分かってたことなんやけど、おふくろの頭の中にはいくつも血栓ができてて、いつ破れてもおかしくない状態やったんや」
「それで、みつさん、どうなんですか。もう大丈夫なんでしょうか?」
「あぁ、命は取り留めたから安心して」
「と、言うと? 何か他に問題が…」
「それがな、何も反応せんようになってしもうたんよ」
「えっ、それって植物人間とか」
「いや、機械に繋がれてるとかそんなんじゃない。ただ、何も分からんようになってしもうた」
「でも、最後に会ったときは、みつさんは今までに見たこともないほど理路整然としてて、ベッドの上に立ち上がって、仲居頭に戻ったようにシャキシャキと言葉も喋ってて…」
「うん、そうらしいな。何や、あのときは、おふくろの頭の回路が突然繋がったらしいけど、そのままスイッチが切れてしもうたみたいやな。先生がそげなふうに言いよった」
「じゃぁ、もう俺のことも忘れてしまったんですかねぇ」
「残念やけど、もう、何も覚えてないやろう。だけん、もう少し落ち着いたら、思い切って在宅介護に切り替えることにしたよ。藤堂君には色々とよくしてもらったけど、代理息子の役目はこれで終わりということです。本当、いろいろとありがとう」
「えっ、いえ、そんな」
「これからは、息子の俺が存分に親孝行する番やと思うてね。俺の長男は、今、二十一歳で、藤堂君のように出来はよくないけど、まぁ、そこそこ家業の手伝いにも馴れてきたし、一番の難関やった嫁も説き伏せた。おふくろの寿命も、もって三ヶ月か、そこらへんと言うことや、人間の命には限りがあるということやな」