今日の歩数 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

なんとか晴れた。歯医者さんまでの往復6374歩。午前中に一仕事してきた。
午後からは出来上がってきた「照葉樹二期」の本の最終校正をする仕事。
昨夜、録画していたレスリーキャロンとフレッドアステェアの「あしながおじさん」を見た。もう何度も見た映画でセリフさえ覚えているが何度見ても素晴らしい。フレッドアステェアの素晴らしい踊りに魅了された。
 白靴を躊躇いて履く雨模様
連載小説「みつさんお手をどうぞ」32
 木元さんと別れて夕なずむ道をゆっくりと流星号を走らせた。正直、俺は落ち込んでいた。木元さんが腹の内を割って話したことの全てが俺の後悔につながっていた。この仕事を引き受けたときは、一言で言えばラッキーとしか思えない軽い気持ちだったのだ。年寄りのお守りを週四回やって、なんぼのおいしい仕事に食らいついた俺は何と浅はかな人間だろう。全てが未経験から出発したことだったが、よかれと思ったことが、木元さんを傷つけてしまった。代理息子を考え出した木元さんは、このことについて「極限の選択や」と叫び、俺は正直、生活のために割り切って引き受けた。この仕事は俺に向いている。と大見栄を切った俺は実は何も解ってなかった。この仕事の根底に深い親子の情が流れていることを。

 みつさんは余程、仕事が好きだったらしい。昼食の時間になり、配膳のときは妙にテンションがあがった。ベッドに座ったまま、大きな声でシャキシャキと音頭を取る。ほら、そちらの方にもお配りして! まぁ、みなさん、お口汚しでしょうが、遠慮なくお召し上がりになって、などと采配をふるう。配膳係のおばちゃんも心得たもので、はいはいと笑いながらみつさんを軽く受け流しているようだった。しかし、そんなときのみつさんは真剣だった。俺のことなど眼中になく、たまにベッドの上で一心に書類をめくる仕草をする。ぶつぶつ小さな声で何か言ってるが、あやめだとか藤や梅だとか、どうも、お客さんの部屋割りをしているようだった。そんなとき、話しかけても返事は全くない。仲居頭に立ち戻って、目が宙を泳ぎ、心は昔にタイムスリップしているようだった。この話を木元さんにしたとき
「そうか、おふくろは仕事に燃えとったもんなぁ、未だに仕事しよるんやなぁ、
なんや、悲しゅうなるわ」
 木元さんの目が急激に赤く潤んで流れそうになったので思わず目を伏せた。
「でも、みつさんは充実した人生だったように思います」
「そうやろうか…。ふがいない息子で嫁とも折り合いが悪く、実家に一人で置いてた時間も長かったんや。寂しい思いもさせたしな」
「でも、その分、みつさんは仕事に専念されてたわけだから、どんなことでもマイナスに考えればきりがないと思います。俺は他人として客観的に見たとして、みつさんの人生は幸せだったように感じてます」
「何でわかる?」
「だって、人生の善し悪しは年を取ってから顔に現れるというじゃないですか。みつさんが昔に戻って仕事の采配をふるときの顔は活き活きと輝いています。俺が見る限り、みつさんの顔には苦労の影はありませんよ。木元さんは苦労をかけたと言われますが、みつさんは、苦労を生き甲斐に変換できるバイタリティがあったような…。そんなふうに思えます。そりゃぁ、惚けてはおられますけど、あんなに無邪気でかわいいおばあちゃんは、そんなにいないと思います」
「そうかぁ! おふくろのこと、そないに言うてくれて、ほんまにありがとう! 藤堂君って、ほんま、いい子やなぁ! お母さんの育て方がよっぽどよかったんか、いまどき、君みたいに純な青年、珍しいで」