昨夕、お仏壇に見送り団子を供えて仏様を送り出したとき、急に部屋の中が
ガランと静かになった気がした。今までご先祖様は我が家にいて下さったんだなぁと思った。今日は突然涼しくなった気がする。1番歳の近い従姉が脳梗塞で倒れた。軽いと聞いて安心はしているが..。

向日葵も咲く潮時を逸したり
◉連載小説「みつさんお手をどうぞ」30
浮かない気持ちのまま、アパートの畳に寝転んでいた。こんな気持ちのままでは書く気も起こらない。いったい木元さんはどうしてあんなふうに切れたんだろう。俺は今までかなり誠意を持って仕事をしてきたつもりだ。日誌を書いて木元さんの納得が行くように説明もし、意に沿うように代理息子を演じてきたつもりだった。全く意味不明の木元さんの逆切れだった。安普請の白いボードで貼付けた天井を睨んでいた。
そんな木元さんから電話が入ったのは、中一日置いた日曜日の午後だった。
「藤堂君、今から会えませんかぁ?」
えらく丁寧な口調だった。俺とて異存はなかった。このままでは明日、みつさんのところに気持ちよく行けるはずがない。夕方まで待って電話がなければ俺の方から電話をいれようと思ってたからだ。
ロイヤルホストのいつもの席で木元さんは心なしか俯き加減に俺を待っていた。いったい、何…、と俺が切り出す前に沈んだ声で謝られた。
「一昨日は、すまん…、藤堂君が、こないに一生懸命にやってくれてるのに、本当、すまんことでした」
あまりにもしおれてるので俺の憤懣やり方ない気持ちが、空気が抜けた風船のように萎んで行った。
「ほんま、情けない…。単なる俺の我が侭が出てしもうたんよ。年下の藤堂君に笑われても仕方ない…。俺、あの日、藤堂君の話聞いてるうちに気持ちが抑えられんようになってしもうた…。何のことはないんよ。俺が直接この目で見たかったんや、そんだけのことなんや」
「……」
「おふくろが毛糸玉見て、喜んだ無邪気な顔、あんたの口から聞くんでなくてほんま、俺、この目で見たかったよ! 俺も始めのうちこそ、この計画は大成功やと思ったよ。でもな、自分で計画しときながら、君があまりにも息子として出来がいいけんね、君が浩志としておふくろに、まるでほんまの息子みたいに気に入られて行くことに、嫉妬してしもうたんや…。おふくろが藤堂君を俺と思うていることは、ほんま、喜ばしいことなんよね。でも、それは、イコール俺をすっかり忘れてしもうてるということなんよね。だけん、俺の心は、君からおふくろのことを聴くたび、複雑な気持ちになる…。俺がこの目で見たいこと、この手でしてやりたいこと、いっぱいあるんや。もうそんなに時間はない。おふくろが死ぬまでに、まだ、し残したことが山ほど、あるのに、手も足も出ん。不甲斐ないんや…。つい、藤堂君にぶつけてしもうた、堪忍やで…」