昨日の海 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

昨日、海を見たおかげで未だ開放感に浸っている。やっぱり海は良い!
さて、朝のうち公園ウオーキングをした。今日のノルマは達成したような気分。
 子供らは波に揺られて浮き袋
連載小説「みつさんお手をどうぞ」18
「たぶん、おふくろは俺の予備校時代の頃を突然思い出したんや」
「……」
「俺がまだ十九歳で未成年の頃の話や。俺の母校の高校で運動会があった日の夜、先輩づらして俺が現役の高校生、俺んちに集めて宴会やったんや。相当、盛り上がった頃な、無粋な近所の誰かが警察に通報しよって、全員、庭から逃げたんやけど、おふくろがえらい絞られてなぁ」
「捕まらんやったんですか?」
「おふくろが、血相変えて、逃げろぉ!って叫んだ声が警官の耳にも入りよって、逃亡を示唆した言うてえらい剣幕でな、結局、主犯の俺が、後日、呼ばれて大目玉食ろうたけど、母親も相当怒られたよ。しかしなぁ、警察に親子して出頭して、おふくろと肩並べて怒られようときね、警官が言うたとさ。
 …お母さん、いったいあんたは息子さんに対してどんな育て方しとうとですか!…。そう言いながらも、木元さんは何度も思い出し笑いを噛み締めている。
「したら、おふくろ、何て言うたと思う?」
「さぁ」
「はははっ、今、思い出してもおかしか。おふろはさ、こげん言うたと。「はぁ、どげんて言われても、この子はほんに、かわゆうござすけん」
 みつさんのとぼけた顔が浮かぶ。思わず俺も声をあげて笑った。
「おやじが死んだんは確か、おふくろが三十八歳の齢よ。それから七十過ぎまで現役で春吉にある割烹で、最後の頃は仲居頭をしよったとよ。従業員の采配からその人たちの家族の心配までするようなシャキシャキした男勝りの気っ風のいい女やったて、おかみさんからも絶大な信頼をおかれとると聞いとった。ばってん、家に帰ったら優しかお母ちゃんやった。俺のことは、もう目に入れても痛くないようなももぐりかたたいね」
「ももぐり?」
「藤堂君、君、生粋の博多っ子?」
「いえ、小さいときは京都郡の苅田の方でした」
「そうか、なら、知らんかもな。博多弁で、かわいくて仕方ないとき使う言葉たいね、ももぐって育てるって言うとは」
 木元さんがおふくろさんのことを話すとき、それは楽しそうに話す。まんぐりもんぐりとも言うたいね。と言って、やたらと嬉しそうな顔をした。
「そうなんですか。疑問が解決しました。みつさんはそのときのことを思い出して、俺に逃げろって叫んだんですね」
「そうそう、それしかなか」
「で、十五分も間をおいて部屋に入ったときは、もうみつさんはすっかり忘れて、全て白紙になってしまったようで、俺のことは広岡君になってましたねぇ。ベッドの上でフライパンを一生懸命ふる仕草をしてました。俺のために炒飯作ってくれてるようでした」
 両手でみつさんがフライパンをふる仕草を真似てして見せた。
「そうなんか…」
「俺をまじまじと見ながら、広岡君、浩志は酒で失敗ばかりしよるけんが、あんまり酒ば飲まんごと、あぁたが見張ってなぁ、って言われました」
「そうや。おふくろがそげんこと言いよったか」
「みつさん、今でもしっかり息子さんのことを気遣っておられるんですね。俺、みつさん見てて、つくづく思いました。俺は母親の思い出といえば、生活に疲れた顔ばかりしか思い出せないんですが、俺のおふくろも口には出さなかったけど心ではこんなふうに俺のことを気遣ってたのかなって」
 しんみりとした空気が漂い、一瞬の静寂がそれぞれに母親への思慕を駆り立てていた。