病院で〜 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

外来から帰宅を許されずそのまま入院したとき、看護師がきて「○○さん、介護はいくつですか?」と訊かれ思わず目が点になった。「なんのことですか?」というと「ほら、1とか2とかあるでしょ。受けられてますか?」と言われて愕然。でもね〜相手は若い看護師さん、そりゃ、私のグレイヘアを見ればそう思うのかな...。しかし、現実を知らされる思いだった。
 何よりのご馳走我が家の布団かな
連載小説「目」最終章
 すっかり目が冴えてしまった。小腹が空いて眠れそうにもなかった。近々ある、シャンソン教室の発表会のためにダイエットをしているのだが誘惑に勝てなかった。それでも丼にインスタントラーメンを半分だけ、中央に卵を割り入れて熱湯を注ぎ蓋をする。無意識に辺りを見回すが目はどこにもなかった。今にも天井から雨の雫が突き抜け落ちてくるのではないか、と思うほどだ。こころなしか蛍光灯が瞬き暗く思えるのは雷のせいかも知れない。遠くに響く雷鳴は、突如、近くに落ちる気配がするかと思えば成子の心をいたぶるようにまた、急速に遠ざかる。香ばしい匂いが漂う。三分待つところを、我慢して五分…。それが成子の好みの固さだった。テーブルにつき割り箸を片手に丼の蓋を取った瞬間、成子は声を失った。全身の毛穴が逆立つ。何と、ラーメンの中央の卵に目があった。何かを言いたげに成子をじっと見つめている。おぞましさのあまり、箸を突き立てると卵が裂け目が二つになった。気が狂ったように箸で丼の中を掻き回すとなんと目は粉々に砕けて汁の上に小さな目がびっしりと胡麻のように浮かんでいっせいに成子を見ている。飛び退いたとき、丼が床に落ちけたたましい音を立てた。何十、何百の飛び散った目が成子を見つめ足下から這い上がってくるのだ。口から飛び出る悲鳴は雷に消されて闇に消える。
 ベランダに這い出すとサッシを閉める。目は目的を見失ったようにサッシを這い上がりガラスをびっしりと埋めて行く。瞬く間に横殴りの雨が全身を覆う。水しぶきが重なりぶつかり細かい粒子は外界をヴェールに包み込んでいた。垂れ込めた雲と雲の重なりをメスで切り裂く鋭い雷が幾つもの筋を作り天を自在に駆け巡る。目の帯はガラスを伝い斜めに這い上がっていた。はっと上を見ると通気孔からぽとり、ぽとり、とベランダに落ちて来る。
「止めてよ! 来ないで!」
 右手で物干のポールを掴み、ベランダに置いたゴミ箱によじ上った。ゴミ箱の蓋が成子の重みに耐えかねてひしゃげる。成子の体は支えるものを失い宙にのめる。体がふわりと浮いてからずいぶん時間があった。闇に浮かぶ目が遠ざかる。…やっと、あの人から逃れることができる…。長い吐息をついた。