先週歯医者さんで問診票につい5月と書いてしまった。えっ!5月って済んだっけ..。とそれくらい時間の経過が早い。コロナが通り過ぎるまで〜と自粛慣れしているうちに日が過ぎる。毎日昼寝してる場合じゃない..ちょっと考えよう。

紫陽花の瑞々しさに得る勇気
◉連載小説「夏蕨7」
母の仏壇の前でへたりこんだまま、忍び寄る冷気に身震いしてやっと我に返った。初冬の陽射しは既に落ちて、畳に続く縁側の硝子の向こうに、椎の葉陰が路地の蛍光灯に黒い影を映していた。
「なぜ、言ってくれなかったの。ミツキさんっていうのよね」
グラスに付いた水滴を指で何度もなぞる栗山さんの目は、いつものやんちゃな輝きを失っておろおろと彷徨っている。
「施設、お母さんじゃなくて、奥さんだったんだ」
栗山さんは俯いたままぼそりと言った。
「騙すつもりじゃなかったんだ。つい話しそびれたんだよ、ほんと、ごめん」
栗山さんの態度に余計に腹が立った。
「そんな問題じゃないわよ。私、栗山さんの言うこと信じてた。奥さん、若年性アルツハイマーですってね、そんな大事なこと、なぜ、話してくれなかったの」
「そんなこと、誰が言ったの?」
「誰にも言わないでねって言われて、ある人に聞かされたのよ」
少しの沈黙があって、やっと栗山さんが口を開いた。
「すまない、だって、きいちゃんのこと愛してるから…。本当のこと言ったらきいちゃん、僕の前からいなくなるかも知れないと思って、怖かったんだ。僕の気持ち、信じて欲しい」
「今更、何を信じて欲しいって言うの」
カウンターの椅子を下りるとそのままサヨナラも言わず、たまるを出た。堪えていた涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。