ワクチンの副反応も人それぞれのようだ。若い人ほど反応が酷く、20代の看護師さんは1回目のワクチン接種で、9度7分の熱が2日続いたと聞かされた。私は7度2分程度がやはり2日間出て気持ち悪かった。2回目が恐怖だ。

梅雨明けを待たれるほどにじめつける
◉連載小説「夏の残り(完)」
悔しげに呟く寛太も声に思わず記事を読み返す。
「齢、二十三歳って書いてある。何でまた自殺なんて…。でも重傷だって書いてあるけど助かって良かったじゃない。寛ちゃんのせいじゃないよ、気にしてるの?」
いきなり、振り向いた寛太の目がじっとセツ子を見てから言った。
「気にするさ」
「でも、これはこの人の事情でしょう、仕方ないじゃない」
「仕方ないで済ませないよ。助けられたかもしれないんだよ。そぶりがおかしいと気づいてたのに、助けてやれなかったんだ。もし、俺が話しかけていれば思いとどまったかもしれないじゃないか」
投げ捨てるように言うとぷいと立ち上がり出て行った。
あれから、寛太はそのことに一言もふれず、セツ子も何も聞かないままに今日まできたのだが、寛太の中ではあのことは終わってなかったのだ。いや、終わるどころかそれが寛太の人生を大きく揺るがす事件だったに違いない。
人一倍責任感の強い寛太だった。事故で両腕を失った女性を助けるうちに愛が芽生えたのではないだろうか。女の首筋にかかる一つに纏めた長い髪を思い出す。
恐らくは、いや、きっと毎朝、寛太が丁寧に髪をとかし一つ結びにしてやってるのだろう。両手を無くした女のために料理を作り、掃除機をかけてるのだろう。
寛太への想いが倍にも膨らみ、胸が張り裂けそうに痛い。
セツ子は寛太の冷蔵庫のコンセントを引き抜いた。突然世界が真空になったような静けさの中に庭の油蝉がやけに大きく泣いている。
入り込む薄い夕闇がセツ子を包みこむようだ。完
(北九州文化協会大賞受賞作品)