オリンピックは〜 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

「アルマゲドン以外は開催する」「例え菅総理が反対してもそれは一人の意見に過ぎない」IOCの副会長の威圧的な言葉に腹がたった。いったいオリンピックって何だろう。考えさせられた。
今日はお弁当スタイルのランチ。
 観客も無きナイターのスライディング
連載小説「夏の終わり16」
 やっぱり、一度、寛太に会おうと思った。寛太の居所なら分かっている。今は魚苑の主人の口利きで、日当の高い魚市場の近くにある、ぶり解体の工場で働いていると聞いているし、若い女と長浜公園近くのアパートで暮らしているのも知っている。
 セツ子が寛太と同棲していたことは全くの秘密にしていたし、齢の違いからして誰もが考えも及ばなかったのだろう。こういう噂はあけすけに容赦なくセツ子の耳に入ってきた。女はなんでも髪が長く、すらりとした色白の若い美人だという。
 ただし、それはあくまで噂であって誰もはっきりと本人を見たことはないらしい。ただ寛太が「曙レジデンス」という名前のアパートから自転車を引き出して仕事場に向かう姿は何度も目撃されているようで、セツ子は矢も盾もたまらず休みの日に、通りすがりの振りをして偵察に行ったことがある。
 あんなに熱心に板前修業をしていた寛太が、女に迷ったとはいえ、ぶり解体など単調な仕事について、今は料理人への夢を諦めたのだろうか。セツ子にはどうしても納得が行かなかった。
 曙レジデンスは相当古い建物らしい。一方通行の狭い通路に南西を向いて立ってはいたが、ここまでも海風がくるのか西陽があたる白い壁の所々に汐が黴びたような青い汚れが浮き出ている。見上げた二階のベランダにはためく洗濯物を見たとき、はっと思わず息を飲み塀の影に隠れた。人の気配がないのを確かめるようにそっと頭を突き出した 青色の物干し竿に見慣れた寛太のTシャツがあった。寛太のTシャツは裏に返されハンガーに掛けられて、両肩に赤い洗濯バサミが留められていた。間違いなく寛太はその家で暮らしていることがセツ子には分かった。何でも大雑把なセツ子が干す洗濯物を「こんなんじゃダメだよ」と言いながら丁寧に叩いて皺を伸ばし、色が褪せないようにと裏返しにしては一枚づつハンガーに掛けて両肩に洗濯バサミを留める寛太の張りのある腕を思い出した。
 やっぱり…。目の辺りの景色がいちどきに褪せていくような感覚だった。そっとその場を離れた。年上のセツ子をいたわってくれた寛太の優しさが蘇り、逃げるセツ子の背後から包み込むように追いかけてくる。セツ子は人の目も構わず泣きながら走った。