眼鏡の耳に掛ける部分が外れてしまい、雨の中昨日転んで痛めた足を庇いつつ緊急事態宣言下の街まで出かけました。なんのことはないただ差し込めば治るだけのこと...。それにしても身体中に痛みがきて今日は何もしたくありません。

今日は木の葉丼とおろし蕎麦

梅雨じめりおよそ似合わぬ衣の色
◉連載小説「夏の残り12」
どちらかといえば、おおまかなセツ子よりも寛太の方が家の仕事をよくやった。セツ子の家の仏壇でさえセツ子よりもまめに必ずお茶を供え、手を合わせたし、しきみの葉も欠かさなかった。
きれい好きで「セッちゃんは家の中を丸く掃く人だから」とセツ子にはまかせず、掃除機はいつの間にか寛太の仕事になっていた。
三ヶ月前、突然、寛太がこの家を出て行った日の前夜、夜中に何度となく目が覚めたのだが、セツ子が知る限り、明け方近くまで台所に電気がついていた。だが、そんなことは今までにもよくあることだった。朝、ねぼけ眼でセツ子が起きてきたときにはテーブルには焼き魚に白菜の漬け物、ガスレンジの上には使い慣れたホウロウ引きの鍋から美味しそうな味噌汁の匂いが温かな湯気となって立ち上っていた。
「徹夜したん? また熱心に料理やっとったんやねぇ、創作料理でも思いついたん?」
寛太が黙って差し出すお茶を飲むと、燻された際立つ茶の香りがした。
「徹夜で焙じたんだ」
焙じているときの寛太の様子が浮かんだ。そんなときはいつも黙々と手を動かしながら何か考えごとをしているのだった。少年の頃の丸みを帯びた頬がいつのまにか骨走った男の顔になっており、いつの頃からかセツ子を寄せ付けぬ世界に入り込んでいるようなところがあった。