佐知子の言葉を聞きながら、カナエは昨夜かかってきた恭一の電話を思い出していた。

「やっと佐知子さんも元の暮らしに戻れたんやね」

「そうそう、昨日も卓球で一汗流したところよ」

「やれやれ、お疲れさんやったけど、春には赤ちゃんも産まれることやし、佐知子さんも良かったやないね」

「そうなんよ。一時はくたびれてどうなることかと思ったけどね」

「持つべきは友達やね。陣の助さんが大活躍たい」

「やっぱ、いざというときの男性の底力を見直したよ。トントンと話が運んだもんねぇ」

 恭一の声のトーンが高くなる。

「今どきの若者がどれほどのもんか知らんけどね、先人の知恵をバカにしたらいかんよ。何しろここまで生きてきたという実績があるっちゃけん、俺らもその経験と博識で持って若者に貢献する任務がまだあるとよ。それを忘れたらいかん」

「ほう、なんか突然元気が出たねぇ」

「そうさ、こうなったら俺らは不思議な縁よ。同年同士で楽しくやろうや」

 思わず、ぷっと吹き出した。

「なんね、そこに行き着くとね。あんた、何もしとらんやない」

「まぁ、そう言わんでさ、仲良し四人組でグループの名前でも付けて色々と楽しもう!」

「たとえば?」

「うぅん、まぁ、すぐには浮かばんけど、例えばIO倶楽部とかさ」

「何、それ」

「イケてるオトナの略、すなわちIOよ」

 思わず吹き出してゲラゲラと笑いながら体に沈んでいる長年の塵のようなものが軽くなっていくのがわかる。

 カナエはほんの少し前までの孤独を思い返していた。

 …友達ってなんてありがたいんだろう。

「もしもし」

 我に返る。恭一が電話の向こうで叫んでいる。

「あっ、ごめん。考え事してた」

「何の」

「いやね、やっぱ友達ってありがたいよね」

「そうさ、この歳での友達付き合いは本当に大事。仲良くやって行こうよ。今度ドライヴでもせんね」

「ちょっと優しくすればつけあがる。まずあんたのすることは免許証の返納やろう」

「そしたら、俺はゴルフも行かれんしどうすれば良いとね」

 まるで会話はエンドレスとなり延々と同じところを回っている。

「老人大学でも行ったら? それかお寺でも通って人間とは何たるぞや。とか

学びなおせば?」

「相変わらずカナエは厳しかぁ。そやけどそこがカナエの魅力やもんね」

「バカヤロウ!」

 恭一の馬鹿でかい大笑いの声に思わず携帯から耳を遠ざけた。

                             了