「ああ、疲れたぁ ちょっと休んだらもうダメやね。体がついてこんよ」
「本当よ。この歳でのブランクは厳しいよね」
久々の卓球だった。陣の助さんのおかげで里沙の問題がとんとん拍子にかたが着いたのだ。
「里沙ちゃん、大野の息子、その子はおじちゃんも知っとうけど、あの子はなかなかしっかりした子よ。文武両道の大野家では自慢の息子たい。で、里沙ちゃんに子どもができたこと、輝喜は知ってるのかな」
俯いた里沙の目からボロボロと大粒の涙がこぼれた。
「なんね、まだ言うてはおらんのね。あいつは逃げ隠れするようなやつじゃないよ。もう後悔したり悩んだりせんでよか。前向きにゴーしかない」
里沙が消え入るような声を出す。
「輝喜は国立の受験組やけん、輝喜の足は引っ張られん」
「バカもん、子どもの命がかかっとうとぞ。何が国立受験組か、そんなことはどうにでもなる。おじちゃんに任せんね」
陣の助の出現でコトは一気に解決に向かった。
相手の家では青天の霹靂ではあるものの、子どもができたと聞いてびっくりしたのもそれは一瞬のことで大喜びに転じてしまったのだ。というのも輝喜は一人っ子で、降って湧いた赤ちゃんの話に、この話はとんとん拍子に進んだ。
輝喜は家の手伝いをしながら大学にも行き里沙は高校の三学期は全休するものの無事高校は卒業できるという。こうなったら何が何でも九大に現役合格すると、輝喜の決心は硬い。佐知子の悩みは一気に喜びへと逆転した。
身内だけで結婚式を挙げると里沙は早々に大野君の家に引き取られたのだ。
佐知子にやっとまた一人暮らしの静かな日常が戻ってきた。