リビングのテーブルに里沙を囲むように今度は陣の助とカナエと佐知子が座る。
佐知子の梨の礫に、居ても立ってもおられず病気でもしてるのかと真っ赤なポインセチアの鉢植えにケーキを携えてやってきた陣の助がことの成り行きでこの会議に加わった。
「佐知子さんの元気がないもんで病気で寝込んでいるのか、はたまた老人性の鬱でもなってるんではとか、歳取ると心配が高じてねぇ、とうとう家まで押しかけてきたのよ。とにかく好きなダンスもせずにさ」
「そんなのおばあちゃんの勝手じゃない、誰も頼んでないのに」
「里沙ちゃん、それはないでしょ。いつも気にかけてくれるおばあちゃんに向かってそんな言い方は良くないよ」
「何よ、このおじさん、もう嫌になる」
里沙の言葉を気にもかけず陣の助さんが加わっただけで肝が据わった会議になり、こうなると里沙も観念したらしく少ししおらしくなる。
「なんと言っても里沙ちゃんはまだ未成年なんだ。でも、今どき一八歳で子どもを産むなんてことは珍しいことじゃない。ただ、親としての自覚はちゃんと持たなければ生まれてくる子どもになんと説明するんだ」
陣の助の言葉はなんとも重みがある。
「相手の男性のことは好きなのか?」
「…」
「それともただの欲求不満の吐け口の遊びなのか?」
しばしの静寂があった。
「そんなんじゃない…」
「じゃぁ、聞くが、里沙ちゃんの気持ちはそのなんとかいう男と結婚するくらいの覚悟なんだね、それが一番だいじなことなんだから」
今まで我慢していたのだろう。頷いた里沙の目から大粒の涙がポトポトと落ちてきてフリースの膝を濡らした。陣の助はゆっくりと頷いて右手を伸ばすと小さな子どもでも撫でるように里沙の髪を撫でてやる。
「里沙ちゃん、辛かったねぇ。よおくわかったよ。ならば、ここからは大人の役目だ。相手の名前を言いなさい」
「……」
すかさず佐知子が言った。
「大野君でしょう」
微かに頷く里沙を見て陣の助がこの場に似合わないひょうきんな声をあげる。
「大野君? もしかして半道橋のところの大野米穀店の長男坊主か?」
「えっ 高坂さん知ってるの」
「知ってるも何も、あそこの親父は俺の同じ高校よ。バスケ部の後輩だもん。そしたら確か、輝喜! そうなのか?」
陣の助さんのおかげで突然視界がひらけた。