里沙との話し合いは膠着状態だ。気まずい沈黙が流れているとき、その静寂を破るように玄関のチャイムの音が鳴った。

「あれ、誰かなぁ、里沙の好きなピザを頼んだけど五時って時間指定してるのに、まさかねぇ」

 とエプロンで手を拭きながら佐知子はスリッパの音を立てて玄関まで行ったけれどどうも宅配ではないらしい。そのうち何やら揉めている声がする。聞き耳を立てればなんと陣の助の声だ。

 カナエはリビングの椅子から腰を浮かせて大きな声で叫んだ。

「どうしたの、陣の助さんなの?」

 

 今度は里沙が椅子を蹴るように立った。

「里沙ちゃん、まだ話の途中よ! 座りなさい」

 カナエの大声に里沙が金切り声を上げた。

「だから嫌なのよ。大人って」

「何」

「頼まれもしないのにずけずけと人の心に入ってきて。放っておいてよ、私のことは自分でやるから!」

「何言ってるの! そんなこと言っても里沙ちゃん一人でなんの解決もできないでしょう。産むための費用だっているのよ、現実を見なさいよ」

 思わず声を荒げたカナエを無視して背中を見せると玄関前の階段を上がろうとする里沙を佐知子が通せんぼして抱くように引き止める。

「カナエおばちゃんがまだ話してるでしょ。里沙、戻りなさい」

 佐知子の声にピクリと身をすくませた。