「このところずっと授業がオンラインやったろうが。あの子を預かった当初はまだ私は卓球したりダンスに行ったりしてたもんね。そのときに男を連れ込んでたとよ」
そういえば、テレビでも言っていた。コロナの引きこもり生活で未成年の異性交友など増えたことが…。
「里沙ちゃんはしっかりしてて、とてもそんな子には見えんやったけどねぇ」
「そうよ、全く予想もしてなかった。まだ、全然子供っぽいし正直私は里沙のことを信用してたのよね」
「で、相手は」
「それが頑として言わん…。でも、おおよその見当はついてる。うちにあの子が来てから何度も遊びに来ていた大野っていう名前の学校でも秀才で結構しっかりとした風の同級生よ。里沙には静かに勉強できるように二階の部屋を明け渡してたんよ。それがいかんやった。リモートで勉強するのに家事の音が煩かったら邪魔やろうと、私も馬鹿やね。親心が仇になったとよ」
それを言うなら婆婆心やろう、とつい突っ込みたくなる自分をカナエは抑えた。冗談を言ってる場合ではない。
「私ったら里沙のために晩御飯作ったりおやつ作ったり、勉強の邪魔にならないようにと、そりゃ、私なりに一生懸命やってたのに」
「そうよねぇ、わかるよ。佐知子一生懸命やったもんねぇ。私だって卓球の相手もいなくなって、私たちの大事なミーティングの時間だって無くなるは、あなたには言わなかったけど寂しい思いしてたんよ」
「ここのところ体の調子が悪いと言って部屋に引きこもるもんやから、心配でダンスする気にもならんやったのに、何と悪阻だったなんて」
「あぁ…。そりゃ、大変」
「息子からはおふくろが付いていながら何でこういうことになったんだ、なんて、もう一体私はどうすりゃぁ良いのよ。私のせいね」
カナエとしてもすぐには良い考えなんて浮かばなかった。
「コロナが悪い。オンラインで学校にも行かんで部屋に籠ってたら隠れて何しようやら分からんもんね」
「そうよ、もうめちゃくちゃよ」
「とにかく、産むのよねぇ」
佐知子は頷く。
「里沙はそう言ってるし、もうお腹が膨らみ出してるしね産むしかない。もう選択肢は無いんよ」
「よし、今から佐知子の家に行こう! 人としての常識というもんを里沙に話して相手の名前を言わせよう」
「待って! そげなことをしたら里沙が自殺する」
「何言いようとね。こげんしとう間にも、お腹の赤ん坊は育ちようとよ。あんたの孫やろ、あんたに似て里沙ちゃんも多分意思は強いと思うよ。一人で産んで育てる気ならそれなりの覚悟もあろうよ。でも、それだけでは世間は渡れん。何とか相手がはっきりするごと説得しよう」