窓に面したカウンター席に佐知子がいてカナエを見ても笑顔もない、というより泣きそうな顔になった。横の座席に置いていたトートバッグを気だるそうに取り上げて自分の膝に置いたその様子からして見るからに元気がない。いつもカールしている髪もなんだかボサボサとなりこの二ヶ月会わない間に痩せたのか頬の辺りがげっそりとして年老いて見えた。注文したカフェラテを受け取るとトレーをカウンターに置いて佐知子の横に座りながらさりげなさを装って声をかけた。
「どうしたとよ。少し痩せたっちゃない? 元気ないやない」
カナエの言葉に俯き加減だった肩をさらに落とすと
「もう参ったよ」と言った。
「なんかあったとね」
「まぁね、ちょっと誰にも言えんことでさぁ」
「何? どこか悪いと?」
「いいや、私じゃぁないとよ…」
「ドキッとしたよ。病気じゃないなら大概のことはびっくりせんけん言うてみりぃよ」
ため息混じりに話し始めた佐知子の言葉に唖然とした。
「里沙がね…」
思わず佐知子の顔を見る。佐知子は一度深くため息をついて吐き出すように言った。
「里沙が妊娠したとよ」
「えええっ!」
カナエは声にならぬ声を出す。
「何でまたそんなことに…」
佐知子はカサついた両手を踏ん張るようにしてテーブルを叩くと胸を大きく反らしため息を吐き出した。
「私に全部話してよ。一人で悩むこっちゃないよ。一体、どうして…」
「そうなんよ、もう私の手に余ってさ、息子に電話しようとしたけど、里沙がさ、パパやママに言ったら自殺する、って言うけん」
「そんな話が通用するね。やっぱり親に言うべきやろう」
「そうそう、で、思い余ってやっぱり息子と息子の嫁にも電話したよ、そしたらなんと、嫁は妊娠中げな」
「はぁ!?」
「不倫相手の男と正式に結婚するらしい。息子とはさっさと離婚してるわけ。でね、里沙の親権はパパにあるからそちらに言ってくれって言うわけよ。挙げ句の果てに、里沙ももう子どもが出来るような歳なんですから自分でよく考えるように言ってください。と言うのよ」
「呆れた…」
佐知子はよほど一人で溜め込んでいたのだろう。一気にぶちまける。