恭一から久しぶりに電話がかかってきたのは年の暮れのことだ。このところ佐知子が卓球にも出てこれなくなり、ダブルスの相方を失ったカナエが家でくすぶっていたときだった。
「どげんしとう」
出だしの言葉で恭一も代わり映えのしない暮らしをしていることの大体の想像がついた。
「別段、変わったこともないし、昨日は一人で映画見に行ったとよ」
「なんね、なら俺ば誘えばいいとに」
「買い物に出たついでよ。気まぐれで入ったとよね。好きな俳優さんが出てる映画やったから。帰りにうどん食べて帰ったとよ」
「俺でも連れがおったほうが良かったろうもん」
「いや、もうなんか一人が楽っていうかね。最近はそうなふうよ。結局、人間は独りよ。孤独にも慣れてないとさ、結局寂しいのは自分なんやけん…」
カナエの強がりは聞き飽きていた。
突然、恭一の声が大きくなった。
「そういやぁ、佐知子さんはどうしようと」
「なんで」
「いや、それが、この前、高坂さんから突然電話があってさぁ」
「えっ、陣の助さんから? なんでまた」
「相談にのってくれんか、って言われてから駅で珈琲飲んだんよ」
いったい何があったのだろう。思わず携帯を持ち替えた。
「何ごと?」
「実はね、佐知子さんがね、最近はダンスにも出てこなくなって電話しても浮かない返事するらしいんよ。で、とうとう電話にも出ないらしい。高坂さんがやきもきしててさ」
「ええっ、ダンスも。彼女は卓球にも出てこないけん最近はご無沙汰なんよね」
「そうねぇ、また、ダンスの大会があるけん練習に誘ったら、事情ができてパートナーを解消してくれって言われたって」
「ええっ そりゃ尋常じゃないねぇ」
「高坂さんが言うには、佐知子さんには別に好きな男性でも出来たのか、と気を揉んでるみたい」
「ばかばかしい、また、すぐそういうことを言う。なんで男ってそうなんね。陣の助に言うとき! 彼女にも言いたくないこともあるやろうし、私の口からなんやかやと言う気はないけん。また、ダンスでもする気になれば自分から出てくるさ。そっとしといてやるごと言うといて」