連載小説「幸せのパズル」17 | ryo's happy days

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「それって、はっきり断れんと」

 我が事のように怒り狂ったカナエの言葉に佐知子も半分は後悔しているのだが、そこはやっぱり血の繋がりが佐知子の心を弱気にさせた。

「今の今まで、母の日だってカーネーション一つ贈ってくれない。なんて息子の冷たさをぼやいていた癖に、やっぱり息子には甘いっちゃね」

「そげん言わんでよ。そら、息子の身勝手には腹もたつさ」

 カナエは一瞬山口に住む娘の夏子のことを思い出していた。シングルマザーで孫の千夏のことでたまにお金の無心をしてくるのだが、塾のお金が足りないとか千夏に電子ピアノを買ってやりたいとか言われればついお金を振り込んでやるから、佐知子の親バカにもあまり大きなことは言えない。けれど、いくら可愛くても孫との同居だけは断じてゴメンだ。七〇歳まで続けたパートも辞めて、無罪放免。やっと今、自由という変えがたい幸福を得たところなのだから。

「まぁ、あなたも息子の頼みには逆らえんというか、里沙ちゃんには罪もないしねぇ」

「そうなんよ。それがさぁ、私が離婚しとうやない。そのときの慰謝料で私は生計立ててるわけだし、息子には父親のことでは迷惑かけてるやろう。だけん今度は息子が離婚すると言ってもあんまり強く言えんとよ、息子にはなんか借りがあるというか、まぁ、弱みやもんね」

「そげなこと、なんば、言いようとね。不倫で離婚するのと、暴力だんなから逃げるとはわけが違う。そんなことで気弱にならんとよ」

 さんざん、佐知子に言ったけれど、結局佐知子の呑気な一人暮らしは突然の孫の同居で一変してしまったのだった。