連載小説「幸せのパズル」10 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

 恭一の言葉に高坂さんが、うんうんと頷きながらジョッキを傾けた。

「私もですね、ダンスのきっかけは女性と抱き合って踊れることが魅力でしたよ。でも、浅はかな考えでした。かなりの重労働でいろんなテクニックを要求される。私はダンス歴はそこまでないんです。まだまだで」

「いやぁ、もうベテランの域に見えました」

「いやいや、まだ一〇年くらいのもんです。浅いんですよ」

「一〇年もされてるのにですかぁ。えっ、とてもそうは見えんけどなぁ」

「家内の闘病がかなり長くてですね、その頃は看病の気分転換に公民館で遊び半分のような、まぁ少しは不純な動機もありながらでですね、ダンスしてたんだけど、一人になってからですよねぇ、こうして真面目に取り組みだしたのは」

「あぁ、なんか、身につまされるなぁ。俺もゴルフにのめり込んだのは妻が逝ってからですよ。心筋梗塞でしたからねぇ。あっというまでした。男は妻に死なれたらもういけません。まず、生活もろくに出来んもんね。ほぼ一年間はコンビニの弁当で済ませて、そのうち、こげなことしよったら俺はもうダメになる。と思ってですねぇ」

「私も気持ちはおんなじです。看病で心身ともに疲れ果てたそんなときですよ。市政便りに「社交ダンス部」初心者大歓迎の文字を見つけて思い切って見学に行ったのが始まりです」

 手にしたビールはそのままに男二人の話がドツボにはまっている。

「俺はゴルフ以外無趣味なんですよ。突然奥さんに死なれてそりゃぁ途方に暮れましたよ。でもまぁ、続けていたゴルフに救われて、今はどっぷり浸かってます」

 男二人のなんとも湿っぽい話をいい加減のところで話題を逸らそうと佐知子がやんわりと言葉を投げた。

「ほらほら、二人とも湿っぽい話はそこら辺にしてさ、せっかく美女が二人ここにおるとやけん」

 佐知子の言葉にぱっと場の空気が明るくなった。

「そうやった、そうやった。すんませんねぇ。つい同病相憐れむってさぁ」

「じゃぁ、もう一回し切り直しね」

 カナエが掲げたジョッキに四つのジョッキが揃って景気の良い響きがした。