こじんまりとした居酒屋に落ち着いてとりあえずは乾杯する。
カナエがまず口火を切った。
「佐知子と高坂さんのペア、かなり良い線行ってたのに残念やったねぇ」
大会の疲れとビールの一気飲みで佐知子の頬はすでにほの赤く染まっている。
「私がラテンのターンでこけたのがねぇ」
「いやいや、あれは俺のせいやけん」
高坂さんがすぐにフォローに回った。恭一もすぐに乗ってきた。
「いや、お二人ともかなりの健闘ぶりやった。初めて社交ダンスの大会みせて
もらって、ああなると、もはやアスリートですね」
「そうよ、スポーツよ」
佐知子のトートバッグから、す熨斗が付いた参加賞の卵とお米が覗いている。
恭一はカナエに頬っぺたを叩かれたこともとうの昔に忘れたようで、さっきまで見ていた社交ダンスの熱気にすっかり呑まれているように興奮して高坂さんと話している。
初めて会う高坂さんは長年の社交ダンスのキャリアで背筋がピンと伸びた細身の男でとても七五歳とは見えなかった。
「いやぁ、社交ダンスでなら、公然と女性と抱き合って踊れる、俺もゴルフ止めて社交ダンスにしときゃよかった」