「はいはい」
無論、着信したときに表示されるからカナエがかけたことは分かっている。
「私」
「うん、私もさぁ、ちょうど話があったとよ」
「何?」
「そっちがかけてきたとやけん、あんたから言いいよ」
「うん、なら言うけど、結果論ね。やっぱ、佐知子の言うとおりやった」
「ははぁ、やっぱり、行ったとね」
「うん、行った。で、つくづくと分かった。私はもう老人だってこと」
「うははは、なにを今更」
「もはや、胸がときめくこともない。ただ、過去の残像を思い起こして、青春を取り戻そうと思ったけど、はっきりわかったわ。無理ってこと」
「あぁあ、おつかれさんやったね」
「ところで、佐知子は行ったと? 温泉」
「いやいや、まだよ、それでさぁ、ちょっとお願いがあるとよ」
「何?」
「今度の土曜日、例のダンスの大会なんよね。で、終わったらその足で温泉に行こうって、その問題の高阪さんに誘われててさ、だけん、苦し紛れに、大会は友人が彼氏と二人で応援にくるから、終了後に友達を置いて帰るわけも行かない。って言ってしまった」
「えっ! なぁんそれ」
「ごめんごめん、やけん、大会、その彼と二人で見に来て! 頼むけん、助けると思って四人で居酒屋でも行こうよ」
「やけん、私はもうそういうことはさぁ」
「ね、ね、お願い! 全員七五歳やけん、まぁ、シニアの付き合いで楽しもう!」
「もう、いい加減やけん! そげんなこと言うても、私、今日の今日、恭一をぶっ叩いてきたとよ」
「なんね、そりゃ過激やねぇ。でも、まぁ良いやない。お互い大人なんやけん、ほんの軽い冗談と相手だって受け流してくれるっさ」
「そやけど、流石に私は今更誘い切らんよ。また誤解されるやないね」
「なんがね、そんなのジョークジョーク、この歳やない、たいがいのことは三日で忘れるさ、忘却の彼方よ。よかよか、居酒屋四人で盛り上がろうや。で、彼の名前はキョウイチさんね」
「うん神村恭一」
「了解! こっちはね高坂陣の助よ。場所は私が予約しとくやね! いつものかね徳でよかよね、 決まりね」