「ごめんね。実を言うとね、カナエの悩みとは少し違うけど私も似たような話でさ、悩んでたんよ。これがせめて六〇代ならねぇ…、と思ったりしてさぁ。ごめんごめん」
佐知子の言葉に胸の閊えが半分になった。
「なんね、佐知子にも何かあると?」
覗き込んだカナエに、ウエーブがかかった栗色のロングヘアに手をやりながら佐知子はため息混じりに口を開いた。
「実はね。今度、ダンスの大会に出るじゃない私。で、今猛練習中なんだけど、社交ダンスって男性と体をひっつけて踊るじゃない。勘違いする男がいるわけよ。実はね、パートナーに温泉に誘われてるとよ。ね、カナエの話と少しかぶるとこがあるやろう? なんか白けるやろう、こっちは健全な気持ちで頑張りよるのにさ」
思わず飲もうとしたペットボトルを口から外す。
「えぇっ! うぅん、そうかぁ…。でもあるかもねぇ」
「そうよ。ダンスのパートナーとして割り切ればこそ、体もくっつけて踊るけど、この歳で、温泉なんて、とんでもないと思ったわ」
「で、断ったの?」
「それが、そうきっぱりとはねぇ、だってパートナーだもん。難しいところなんよ」