約束の水曜日、諦め半分でいつものホテルに着いたとき、いつもの場所に近藤の自転車があるのを見てたちまち心が色めいた。今日まで懸命に堪えていた気持ちがいちどきに溢れて嬉しさと不安に泣きそうになりながらも、何気なさを装い陽気に振る舞う。

「ほら、あなたの好物のイカのゲソ揚げもあるけんね、今日は芋焼酎にしてみたとよ。氷も買うてきたけんロックで呑もうよ、それも良かろう?」

 嬉々としてグラスに氷を入れなみなみと焼酎を入れた。

「あぁあ、こぼるるばい」

 酒好きの近藤がグラスに唇を近づけ焼酎を吸い込むように呑む。嬉しかった。ゴルファーらしい傘マークの半袖ポロシャツから日に焼けた逞しい腕が覗いている。

「今日はお風呂はまだやった?」

 先に来たときは風呂を済ませバスロープでくつろいでいることが多い。だが、今日のように少し汗の臭いがする近藤も好きだった。

「呑んでから、二人で入ろうか?」

 羞じらいながら上目遣いに近藤を見上げたときはっとした。さっと血の気が引く。真顔の近藤を初めて見た。一瞬、間が空いた。

「筑紫路に行ったとやろ」

 顔が強ばるのが分かった。言葉が見つからず、しどろもどろになる。

「あ、あぁ、あれねぇ、確かに行ったけど、店に入ったわけじゃぁなかよ」

「そこまで行ったなら、入ったも同じたい。何でそげなことするとや」

 何とかこの場を繕わなければ…。

「何で知っとうとよ、もしかしたら和恵さんに聞いたと?」

「誰や、和恵って。そげな女は知らん。嫁から聞いたったい、弁当屋のおばさんが店の前ば行ったり来たりして中ば覗きよったち」

 そうか、店の中はガラスで光って見辛く、何度か覗いて見たが、店の中から外は丸見えだったに違いない