カーテンの隙間から刺すような陽射しが差し込んでいる。枕元の時計を見ると七時を過ぎていた。布団に足を突っ込んだまま片手を畳について右手で遮光カーテンを思い切りよく開けた。ベランダのガラスの向こうの空は青く、梅雨明け宣言はまだというのにもう見事な入道雲がのしあがっている。慌てて布団を出ると洗面所に行き、鏡に写った顔を覗き込む。昨夜、所在なく缶ビールを二缶呑んでそのまま眠ったせいか、むくんだ頬をパンパンと叩いて喝を入れた。今日から休んでいた弁当屋のパートに復帰することになっている。
「そげん引きこもっておってもしょうがなかろうが。出てこんね」
パート仲間の和恵さんが口を利いてくれて、復帰のきっかけを掴んだ。
このままではいけない。何とかこの孤独と怠惰な生活から抜け出さねば私の一生はこのまま終わってしまう…。
美佐なりに焦る気持ちもあったしこんなときは友だちの有り難みが身にしみる。身内より近くの他人の方が余程温かい。
「近藤さん、今でもたまに弁当買いに来てるよ。美佐ちゃんがおらんと寂しそうやが」
和恵の言葉で押し潰された心に小さな隙間ができた。…近藤さんに会いたい…。パートへ復帰する気持ちを後押ししたのも和恵のその一言が大きな要因だった。愛用のママチャリに乗り弁当屋に行く前にATMで通帳の記帳をする。今日が年金の入金日だった。恒男の二か月分の遺族年金21万2千円が振り込まれている。主人が生きてるときはなかった収入が死んだ後にこうして振り込まれてくるのだ。恒男の顔がふと瞼を掠めた。死んでも恒男の妻だという証がこの年金ということか…。主人の命の代償の21万2千円…。一と月に換算すれば10万6千円と少ないが有り難い。恒男への感謝の心とは裏腹に心は近藤さんに会いたい気持ちが渦巻いている。ふっと罪悪感が胸をよぎった。パパを裏切った癖に結局パパの年金で食べさせてもらってるじゃない! 理恵のなじる声が聞こえた気がした。