「そうなの。じゃ、理恵に言っといて。私はあの子に許して欲しいなんて言う気はないから。だってそうでしょうが…、私はパパの番人じゃないんやけんね、私はね、パパに代ってパートで一日働いとったとよ! 四六時中、あの人を見張ってることなんてできるわけないじゃない。それに、だいたい分別がある大人なら酒呑んで風呂で溺れるなんてことせんやろうもん、何で私がこんなに責められないといけないんよ。私のどこがいけなかったっていうの、教えて欲しいくらいだわ」
言いにくそうな声がもぞもぞと聞こえた。
「僕にはわかりませんが理恵は親父さんっ子だったけんがですね、でも、まぁ、親父さんは何というか病気だったわけで、ま、そんなわけで、あいつは、お母さんさえあの夜、家にいてくれてたら親父さんは死ななかったと思い込んでいます。いや、そんなもんで…」
「わかりました! だけどね、私だってあの人のわがまま病にどれだけ苦労させられたか…」
悔し涙にテーブルのティッシュを二、三枚抜き取って鼻をかんだ。
今まで、努力していたことが、ばからしくなってきた。美佐よりも四歳年下で、まだ働く力も存分に残っている恒男が働かないのは鬱という訳の分からない病気のせいとはいえ、こうも長引くと単に怠け病のような気がしてくる。そんな恒男を抱えた暗い日々を、弁当屋のパートで何とか支えて暮らしてきた。背中を丸め、口を利けば死にたいだの、消えたいだの、そんなことばかりで、夜中に、たまに美佐の方から、手を伸ばしてみても、くるりと背を向けて抱いてさえくれなかった。
そんなとき、美佐は燃えるような体を持て余しながら、隣りで寝ている恒男が恨めしく、ねぇ、ねぇ、と背中を揺り動かしてみても煩そうに無視された。
