CALL(連載短編小説)第2回 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

 美佐の日常は、そのほとんどが二LDKの部屋とベランダだけの狭いマンション暮らしだ。夫の恒男が生きているときから持ち上がっていた家の売却話は、代々の西田家が無くなることで夫が頑に反対していたが、恒男の死後、美佐は受け継いだ古い家を早急に処分し、中古ながら博多駅近くのマンションに移り住んだ。美佐が六十二歳の年だった。

 夫の死因は思い出したくもないが溺死だ。酒に酔って風呂に浸かったまま溺れたらしい、としかいいようがない。というのは、恒男が死んだその夜は、美佐は家にいなかったからだ。パート仲間と忘年会の真っ最中だったのだ。カラオケでさんざん盛り上がり、みんなと別れて今度は、近藤さんと二人きりの濃密な時間を過ごした。ホテルを出た後、もう一軒馴染みのスナックに寄ったから、帰宅したときは午前一時を廻っていたと思う。あれこれ言い訳を考えながらそっと玄関を開けたものの、居間に夫の気配はなく、どっと酔いがまわってしまったのだ。化粧も落とさず服のまま炬燵に潜り込み眠ってしまったので、夫の異変には全く気づかなかった。

 けたたましい救急車の音、検死官や刑事の取り調べ、駆け込んできた娘の理恵の悲鳴、湯にふやけて倍近くに膨らんだ、しかも血だらけの恒男の体に取りすがり、狂ったように泣き叫ぶ。まさに修羅場だった。その声は今でもときたま蘇り、そんなとき、美佐は思わず両手で耳を塞ぐ。