今夜も鳴った。受話器を取ると、おもむろに切れる電話。それは毎夜ほとんど決まった時間、美佐がベッドに入ろうとする頃、たいてい夜十一時を十五分ほど廻った時間だ。こうして、約半年近くも続けば、またか、とうんざりしながら、一%の期待を込めて受話器を取るが、静寂の中でツーンと耳に響く機械音は虚しく、美佐の心はその都度、孤独に冷えた。
丸一日、誰とも話さない日もある独り暮らしの寂しさの中で、たまに電話が鳴れば、それが他愛ないセールスの電話だとしても、人と喋るという行為の誘惑に負けてつい長々と勧誘の話を聞いたりもする。だから、毎夜鳴る電話が、今では、得体が知れない無言電話と分かりつつも、僅かな望みをつないで受話器を取るのだ。今夜こそは誰が取ってやるものかとCALLを数えながら、やっぱり根負けして取れば、案の定プツリと切れた。
ディスプレイを見ると黄色い電光版に非通知表示の文字が浮き上がって見えた。いったい誰だろう…。自分を知っている人だと思った。諦めきれなくて、何回となく着信履歴を調べてみたりもしたが非通知だから分かるはずもない。酷く寂しい気持ちで未練がましく電話の前に突っ立ったまま、かかるはずもない再度のCALLを待ったりもした。
もしかしたら、別れたあの人かもしれない。主人が死んだことですっかり疎遠になってしまったあの人が、今頃になり未練がましくかけてくるのかも知れない、などとあらぬ想像をしたりした。