「ここに直線を一本ひいてごらん」
「それは直線だ」
しかし、考えてみてごらん。
君が書いた直線には
始まりと終わりがあるね。
だとすればそれは
二つの点を最短距離で結んだ線分だ。
本来、直線の定義には端がない。
無限にどこまでも
続いていかなければならない。
しかし、一枚の紙には限りがあるし
君の体力にも限りがあるから
とりあえずの線分を
直線と了解しあってるのに過ぎないんだ。
真実の直線はどこにあるのか。
それは「ここにしか」ない。
物質にも自然現象にも
感情にも左右されない永遠の真実は
目に見えないんだよ。
目に見えない世界が
目に見える世界を支えているんだ。
肝心なことは心で見なくっちゃ。
博士の愛した数式
小川洋子著
の、ワンシーンより。