「お義父さん、お義母さん。お願いします。自首してもらえませんか?それとも警察を呼びましょうか?」珠美が口を開くと、

 「それだけはやめてくれ!私たちは悪くない!すべてはあいつらのせいだ!」父の則勝は、自分たちがブラックインサイドによって洗脳されていたことにやっと気づくと、無罪を主張した。しかし、ブラックインサイドは総統が処刑されると、組織も自然消滅した。

 「私からもお願いです!」可都江も泣きながら土下座をした。

 「だが親父やお袋のせいで仕事が続けられなくなるんだぞ?先生の親、人殺しってね。子供たちにも顔を向けられなくなるよ。そうなったらこの村にいられなくなる。どうしてくれるんだ」

 「取り返しつかないことやってしまって本当に申し訳ない。お前がそう考えてるのなら、素直に自首してくるよ。それでいいんだろ?」

 「やっとその気になってくれたんだな。洗脳が解かれたっても今さら悔やんでも遅すぎるよ。しっかり償ってくれよ」息子の進助ばかりではなく、彼の姉妹にも人殺しのレッテルを貼られ、もはや逃げ場を失った状況だ。両親は進助の言われた通り、警察に自首した。二人は強盗殺人の罪に問われ懲役刑に服した。懲役何年かわからないが、彼らが生きている限り服役するだろう。

 「やれやれ…でも俺、学校に行けなくなるな…この仕事が天職だったのに、あの出来事ですべてが失われた。これからどう生きていくか…」あれから進助は教師を辞める決意をしたが、転職先がそう簡単に決まるものではない。珠美との仲もギクシャクし、口をきかない日が何日も続いた。

 「珠美、すまん…許してくれ…」

 「もうあなたとはやっていけない。私はやりたいことが見つかったの。今日限りでこの家から出ていくわ…」そして二人はとうとう離婚。進助は両親のいなくなった実家に帰ったが、そこでもあの出来事が尾を引いたのか、彼を雇ってくれる職場もなく家に引きこもっている。珠美は愛馬・ビアンコとともにかたつむり農園を訪れた。いずれ自分の店を持つために農園スタッフとしてしばらく働きたいそうだ。

 「こんにちは。失礼します」すると、農園主の立見宗二郎が彼女をまじまじと見つめ、

 「もしかしてあんたは…その馬も見かけたような…」 

 「わかってくれましたか?」 

 「ダイヤモンドなんとか…じゃなかった?」

 「そうですよ。ワタシは正義の味方・ダイヤモンド・ヴェール」珠美はHAGEと戦っていた時のようなポーズを決めていた。

 「あの時はカッコよかったよ。あんたのおかげで我々は救われた。感謝だよ。ところで何の用かね?」

 「実は…私、フラワーショップ開きたいのです。ここではお花を育ててるそうですね?そのためにここで勉強させてもらいたいな、って。」

 「そういえばあんたの親、何者かによって殺された”あの店”だったんだね」

 「はい。だから私がこの店を守りたかった。だけど、あんなことになってしまったなんて…」

 「そりゃ、気の毒だね。あんたがここで手伝う気があるならぜひとも」

 「ありがとうございます。夢に向かって一生懸命頑張ります!」珠美はかたつむり農園のスタッフとして働くことになった。その時、川山絵美と七村野絵が、

 「あなたは”リリーガーデン”の…」

 「よくわかってましたね。もしかして、お隣のおにぎり屋さん…」

 「ええ。まさかこんなところで会うのは偶然ですね。私たちもいずれはここでおにぎり屋を開きたい。だから野菜・お米・お花を育てて、ここで穫れたものをお店に出したりしてます」

 「あなたたちも夢があるのですね。お互いいい刺激になればいいですね」

 「珠美ちゃんでしたっけ?私もお花が大好きなんです。ここで育てたお花をあなたのお店で…」絵美は微笑みながら珠美に話した。

 「それは楽しみです!ますます夢が膨らんできますね」農園ではイネの収穫がやってきた。

 「珠美ちゃん、イネ刈り初めてだろ?腰を痛めないように気をつけるんだよ」珠美は慣れない農作業に手こずっているが、絵美たちは慣れた手つきでこなしていく。宗二郎はコンバインを使ってどんどん刈っていく。

 (やっぱ機械は早いな。自分も使えるようにならないと)

 「刈ってもすぐに米にはならない。しばらくもみを乾燥機にかけないといけない。それでやっと米になるんだ」

 「なんとなく食べている野菜やお米だけど、農家さんの大変さがよくわかります」珠美は彼らの苦労が身にしみたようだった。絵美と野絵はそのお米で作るおにぎりはきっと評判になるだろう、と過去の失敗を繰り返さないと思いを込めていた。

 「珠美ちゃん、見て見て!綺麗に咲いてるよ!我ながら上出来」絵美が自分で育てた花を珠美に見せると、

 「素敵ですね!」彼女は瞳を輝かせながら、可憐に咲いている花をじっと見つめていた。ゆくゆくは自分の店を持つ、ようやく夢に近づいてきたようだ。

 和志田家では、夫妻がかねてからレストランを開く夢を持っていた。実家から職場通勤していた夫の一雅が帰り、調理師の資格を持つ妻・とも子とともに念願のレストランを開いた。一雅も学生時代、飲食店のアルバイトを経験、かたつむり農園やさゆり牧場の農産物を使ったメニューが売り物で、無農薬で安全な食材を使い、あっという間ににぎわいを見せた。ようやく夢が叶い、二人に笑顔があふれていた。

 「好調さがいつまで続くか。ここに食べに来てくれる人たちにサービスは手を抜かないようにしないと」リピーターをなくさないよう、精一杯のおもてなしを心掛けている。子供たちも大好きなサッカーができることや、のびのび遊ぶことができ喜びを噛みしめている。

 「やっと外遊びができるようになって最高だよ!」

 さゆり牧場では、羽多間夫妻が長年我が子のように可愛がられていた雌牛のさゆりの大往生で気落ちしていたが、牧場主の恵視は出産間近の母牛の立ち合いをしていた。やがて無事に出産、生まれた雌牛は”二代目・さゆり”として再び”我が子”として迎え入れた。

 かたつむり農園で住み込みとして働いていた川山絵美と七村野絵は、そこで穫れたお米や手作りの梅干しなどを使ったおにぎり屋”じゃんけんぽん”を再開業。こんどこそ百合園の二の舞にならぬようにと、開店早々、大勢買いに来られ、あっという間に売り切れとなった。百合園で開いてた時よりも明るく笑顔が増していた。そこには先日からかたつむり農園のスタッフに入った目黒アザミも手伝っている。口コミも広がり、地元ばかりでなく百合園など近郊からも行列ができるほど繁盛している。前店舗から作っていた借金は悪徳な取り立て屋に追われることなく、良心的な弁護士に出会えたおかげで完済できた。

 小学校教員だった八原進助と離婚し、しばらくかたつむり農園で居候をしていた珠美も、進助が去った自宅を改装してフラワーショップ”リリーガーデン”を開くことができた。”リリーガーデン”はかつて百合園市で彼女の両親が営んでいた店で、彼女は両親の想いをこの店に詰め込んで愛情のこもった店づくりを、と意気込んでいる。

 こうして阿沙比奈村は以前のような自然豊かな平和でのどかな村に戻り、村人たちも解放感に浸りながら、

 「この村を救ったのは”あの人”のおかげだ。もし何かがあった時、彼女を思い出すがいい」突如として現れたヒーローに感謝しきりだ。村をにぎわうためには都会化するのもアリだったが、シラハタファームの件でこりごりだ。そして次々に新しい店ができるうちに必然的ににぎわうようになっていた。いつか花開くように、自分たちでできることをやっていくしかないと。

 「やはり阿沙比奈村はありのままが一番」村人たちに笑顔があふれた。空を見上げると暖かく煌びやかな日差しがこぼれ彼らを包む。こんな穏やかな日がずっと続きますように…。

 

 

 

 (おわり)

  

 ※この物語はフィクションです。登場人物・場所・建物・団体などはすべて架空です。