月日が流れ、阿沙比奈村では至るところに取り付けられていた監視カメラが取り外され、緊迫した雰囲気はなくなっていた。シラハタホールディングスに買収されるところだったかたつむり農園やさゆり牧場もやれやれといった気持ちだ。HAGE一味が解散し、すっかり姿を見せなくなったおかげで平和でのどかな風景が戻ったのだ。その幹部だったカッツェこと八原則勝とシャネットこと妻の可都江はダイヤモンド・ヴェールの汚れた心を浄める鞭によって洗脳を解かれ、普通の村人として暮らすようになった。しかし息子の進助が勤めている小学校では、彼の両親への風当たりが強くなってきたのだ。5年生の担任である彼は、和志田大海らクラスメイトが、

 「先生、やっぱりパパは悪者だったじゃないか」

 「お母さんもそうだったよ。どうしてああなっちゃったんだろ。いつも誰にでも愛想よくニコニコしてさ」

 「村をめちゃくちゃにして俺たちの自由を奪ったくせに、よく黙ってたな」

 「ひきょう者!そうやって逃げてたんでしょ!」

 「ところで、あの覆面を付けて戦ったのは先生の奥さんだって。カッコよくてしびれたわ~」

 「めっちゃ強かったよね。そのおかげで私たちは助かったのよ」

 「なのに奥さんの親が殺されても黙ってたなんて。見損なったわ」と、進助が質問攻めに遭うと彼は、

 「皆すまなかった。親父もお袋も悪気はなかったんだ。だけどああなったのは親父の会社が倒産しかけてお金を出してくれた人が悪かったんだ。親父は騙されてたんだよ。だから許してやってくれ」

 「じゃあ先生から謝るように言ってくれよな。それから奥さんにもな」

 「わかったよ。家内も怒ってるだろうし」さすがの進助も子供たちの正直さにあっけにとられていた。

 諸悪の根源となっていたブラックインサイド、総統であるドクターネンチは手下だったHAGEの裏切りにより、やけくそになっていた。彼らに操られ資金援助を受けていたいたHAGEも自然消滅し、その一味もダイヤモンド・ヴェールによって欲にまみれ汚れた心を浄化させた。

 (もうあとがなくなってきた…我々は金の力でこの世を動かし支配をし、すべてが上手くいくと思ってた。この考えは愚かで甘えだったことを思い知らされた)”金の切れ目が縁の切れ目”といわれてるが、彼らはまさにその状況に立たされているのだった。

 (立て直すのはほぼ無理かもしれない…我々を待っているのは民衆からの戒めだ。ゆくゆくはその無様な姿を晒される。覚悟はしている)やがて裁判が行われるが、おそらく極刑になるだろう。阿沙比奈村を領土化し、シラハタホールディングスとともに巨大プロジェクトを計画していたHAGEも、かつての慈善団体であった”Heartful Agency of General Expert”に再建した。そのメンバーは闇組織だった頃のHAGEの残党でしぶとく活動をするつもりだ。シラハタワールド・プロジェクトが無残に打ち砕かれ、村人たちは安堵感に包まれた。そして一年後、ドクターネンチの処刑が決まると村人たちは手放しで喜んだ。そのプロジェクトの目的は資金提供を受けたHAGEとその投資先であるシラハタホールディングスがブラックインサイドへ恩返しするためだったからだ。だがプロジェクトを失敗したことにより、ドクターネンチの怒りの矛先がHAGEに向けられた。しかしHAGEはもう存在しない。改心したメンバーも普通の村人に戻ったものの、それまでの悪事でどのような処罰を受けるのか。ドクターネンチはその日まで部下たちとともに雲隠れをした。

 (とうとう追い詰められたか…巨万の富があっても心は満たされない。やがては破滅の道に進んでいく。その金もただの紙きれになってしまう…我々は金がすべてではないことを思い知らされた…”この日”を待つまでに…)彼はすでに覚悟を決め、私利私欲にためにあらゆる民衆を巻き添えにしたことを恥じていた。村人たちの反応も彼らに対しては、

 「奴らがいなくなって、やっとまともな生活ができるようになったよ」

 「あの仮面女がいなかったら、村はどうなってたかわからなかったよ」

 「ところで、その仮面女の正体、知ってるか?」

 「さあ…空から降ってきたとか?」

 「わけないだろ。そんなファンタジーなこと言って、頭イカれてるのか?」

 「まさか。でも不思議だよな。なぜ俺たちを助けたかったのか」と、解放感に浸りながら口々に語った。彼らにとって阿沙比奈村は不便ながらも、やすらぎの場所である。なんとしてもこの村を愛する気持ちがドクターネンチら支配者たちに通じたようだった。

 「ざまあみやがれ。阿沙比奈村は我々にとって”オンリーワン”だからな」

 「あんな不相応な建物作ったところでメリットはなかったんだよ。それに喜んでる奴はこの村にはいなかったし」

 「村長の言うことを聞いていればよかったのに、なんて愚かな」

 「最後まで騒がしやがって、罰当たりが」

 そして、数か月が経ち、いよいよドクターネンチの公開処刑当日、彼は処刑台に立ち、

 「金で世の中を支配できると思うなよ」と最期の言葉を残した。すると村人からは歓喜に酔いしれ彼の最期を見送った。

 

 

 

 (つづく)