さらにシラハタファームに悲劇が起こった。

 「ケージのニワトリがおかしい…鳴き声もしないし…」見回りをしていた責任者の広野新太朗が気づくと、

 「こ…これはどういうことだ…全滅ではないか…」現場にいたスタッフは信じられない様子でケージ飼育されているニワトリ約2万羽がすべて息絶えていたところを眺めると、言葉にできないほどショックだった。

 「ワクチンも打って、餌にも気をつけていたのになぜ…」原因はどうやら鳥インフルエンザだった。感染元は不明で、ケージのニワトリはすべて処分されることになった。出荷予定の卵は処分されないが、市場に出回ることができなくなると、シラハタファームにとってそれが収入源であり、かなりのダメージがあるだろう。そして処分する作業員数名が防護服姿でやってきてさっそく処分をし始めた。彼らはニワトリたちを袋に詰め込み、その数は400袋におよんだ。その後、ケージごと消毒をした。その作業は丸一日かけて行われた。それを聞いたシラハタホールディングスの白畑社長は、

 「これだけの被害が出るとどうしようもない。立て直すとなれば、やはりHAGEの手を借りなければならないが、これ以上あてにできない。彼らにその余裕がなく、なんとしても自力で立て直すしかない」と語ったが、その口調は弱々しかった。

 そこから約3Kmにあるさゆり牧場のニワトリたちは処分の対象にされてなかったものの、感染が疑われる場合もある。もし、そっちまで被害が広がってたら…と不安になってくる。しかし我が子のように愛情かけて育ててきただけに、もし処分されるとなると可哀想でならない。安全な場所を確保し、とにかく無事であるのを祈るのみだ。牧場主の羽多間恵視は、鶏小屋に避難をさせ鍵をかけて出さないようにした。そうしないと見つかって処分に来られるからだ。だが、鳴き声はおさまらず、その声を聞いただけでわかってしまう。

 (やはり無駄なんだろうか…どうか来ないでくれ…)その予感は的中した。数日後に防護服を着た作業スタッフがやってきたのだ。

 (鳴き声でわかってしまったのか…)

 「頼む!処分しないでくれ!」恵視は必死に止めようとするが、

 「おたくのニワトリも、もしかしたら鳥インフルエンザに感染してることが考えられる。その卵は出荷できなくなるぞ?」

 「うちの鶏に影響はあっても火を通せば食べても安全だといってる」

 「そんなこと通用するか。とりあえずうちで処分させていただく。これが決まりだ」

 「そうはさせるもんか!鶏も牛たちも大切な家族だ!殺すことは絶対許されるものか!」畜生であれど、家族のように慈しんで育ててきた。しかし彼らは無慈悲にも処分をし始める。

 「待てよ!やめてくれよ!ここの卵は自慢じゃないが五つ星レストランにお墨付きをもらったほどだ。なんとかファームのヤツより味も質も格段に違うからな」

 「うるさい!知るかよ。こっちだって命がけなんだぞ」

 「やれるもんなら、やってみろよ。何の罪のない動物の命を何だと思ってるのか!そのうちおたくらに天罰下っても知らないぞ!」

 「チッ、こっちにも考えがある。覚えてろ!」彼らはこの場から去ったが、まだ終わるつもりはなかった。

 (きっと何か企んでるに違いない。もう寝るとするか)夜を迎え、眠りにつくと、狙ってたかのように先ほどの作業スタッフがやってきた。寝ている間にニワトリを袋に詰めて処分していたのだった。

 (こんな夜中にうるさいな…)と、恵視が目を覚まし鶏小屋を覗くと、

 「こんな夜中に何やってるんだ!鶏を返せ!」彼は手に持っていた卵を作業員たちの顔にぶつけた。

 「うわっ…前が見えない…ちきしょー!」すると彼らはニワトリが入った袋を置いて慌てて逃げて行った。

 (無事でよかった…殺されるところだったよ…また寝るか)恵視は再び眠りについた。

 

 阿沙比奈村では相変わらず不気味な静けさが村全体を包んでいる。再びHAGE一味がまた何か企んでいるのだ。幹部のカッツェはサングラスをずらし、目をぎらつかせて村役場に行くと、村長の毛妻次生に、

 「貴様が村長だな。言っておくが、この村は我々が占領し支配する。もう貴様は用無しだ」

 「それはあんまりです。おたくらが来てから村が一気におかしくなりました。なぜ阿沙比奈村を自分たちのものにしたいのですか」

 「これはある約束があるからだ」

 「約束?うちにはその覚えがありませんが…?」

 「私どもを悪に導いたある組織だ」

 「シラハタファームやあのタワーも関わっていたことですか?」

 「そうだ。さらに規模を大きくしてシラハタワールドを作る。それがあいつらへの恩返しだ」

 (恩返し?そうだったのか…私たちは彼らに利用されたのか…騙されたってことか…)毛妻村長は悔しがっていた。村を悪に染めて自分たちの領土にする。許すまじことだ。

 「今さら貴様らが地団太踏んでも、もう手遅れだからな」カッツェはニヤつかせながら役場を後にした。

 (計画は順調に進んでいる。万が一、村人が何か起こしても、しもべたちがしっかり見張ってるから心配いらん)

 

 

 (つづく)