(やはり、うちにはヒーローがいないと…)が、その時だった。歌が流れるとともに、白馬にまたがった仮面女が颯爽とやってきた。
【いけいけ 黒ブーツ
うてうて 赤い鞭
善と悪とは 紙一重
悪を裁いて 骨の髄まで 懲らしめる
夜も朝も 休むことなく(Everyday!)
平和のために闘うぞ(Oh、justice!)
愛と正義で(Love&piece!)
幸せつかめ(Get happiness!)
ダ・ダ・ダイヤモンド
ダイヤモンド・ヴェール】
その仮面女は「ダイヤモンド・ヴェール」と名乗り、銀色のラメをあしらった仮面を着け、ピンクのレオタードに黄金色のベルト、黒いブーツ、緑のベレー帽、長い茶髪を振り乱し、手には謎の能力を秘めた赤い鞭、そしてダイヤモンドのようなきらびやかなマントといういで立ちで、突如としてHAGE一味の前に現われた。生息地については不明だが、阿沙比奈村のどこかであるが、その正体は村人の誰もが知られていないそうだ。
「何者だ、貴様」
「ワタシはダイヤモンド・ヴェール。世の中の悪と戦う。ワタシはオマエたちを許さない。ワタシはオマエたちを倒すためにやってきた」
「ふざけるな!女だからってなめてるんじゃねーぞ!皆ども、やっつけてしまえ!」
「なめてるのはオマエたちだ。これでも喰らいな!」と、ダイヤモンド・ヴェールは赤い鞭を打ちながら、
「ワタシの愛するこの村をオマエたちのものにさせるか!とっとと降参しな!」彼女は大勢の部下に囲まれても怯まずに体を張って挑んだ。仮面の下の瞳からは力強さをにじませていた。
「こんなショボい技なんてチョロいもんだぜ。早くこいつを捕まえろ!」
「そうはさせない!」ダイヤモンド・ヴェールは身軽さを生かし、素早い動きで敵の攻撃をかわしていく。
「なんてすばっしこい奴だ!」すると彼女は赤い鞭をしならせながら、敏捷さと驚異のジャンプ力で次々と倒し、さらにその鞭をロープのように操り、身動きを取れないようにした。
「く…苦しい…」
「ほどいてくれ…」部下たちは鞭で締めつけられ苦しさを訴えると、
「ビアンコ!とどめを刺すのよ!」ダイヤモンド・ヴェールは愛馬・ビアンコにまたがり、彼らにとどめを刺した。
「くっそー、覚えとけ!今度現れたら必ず倒してやる!」すると村人たちはパチパチと拍手が沸きあがった。
「カッコよかったぞ!我が阿沙比奈村のヒーロー、いやヒロインだ!」彼らが待ち望んでいたヒーローの出現は現実のものになっていた。その存在は村に希望をもたらし、HAGEによって染められた悪を一掃してくれると期待しているのだ。ダイヤモンド・ヴェールは無言でその場から風のように去っていった。
「ありがとう!また助けに来てくれよ!」おかげで阿沙比奈村はいつもの静けさを取り戻すことができたが、それで終わりではない。HAGEの幹部の一人、カッツェは、
「”ダイヤモンド・ヴェール”か…ただ者じゃねーな。我がHAGEにはまだ秘密兵器がある。待ってろよ、ダイヤモンド・ヴェール…」彼の表情には無敵の笑みを浮かべながら、ダイヤモンド・ヴェールへの復讐を誓った。まだまだ彼らの攻撃の手は緩めておらず、あの手この手で企んでいるのだ。
(覚えとけよ…この村は絶対我々のものにしてやる…)
ダイヤモンド・ヴェールが去った阿沙比奈村だが、その正体については、あくまで噂であるが小学校の教師の八原進助の妻・珠美ではないかといわれている。彼女の実家は百合園市でフラワーショップ「リリーガーデン」を営んでいたが、何らかの事情で数年前に廃業。ちなみに隣は川山絵美が経営していたおにぎり屋「じゃんけんぽん」があった。夫の進助とは百合園中学の同級生で、卒業後はそれぞれ別の道に進み二人が再会した同窓会で本格的に交際を始めた。それまでは遠距離恋愛しながら会える日を心待ちにしていた。やがて二人は結婚、彼女は専業主婦として進助を支えている。子供がいない二人は、ペットの白馬をさゆり牧場から貰い、我が子のように可愛がっている。
さゆり牧場は羽多間夫妻が脱サラで村に移住して農地を買い取り、そこに牛・豚・馬・鶏・羊が飼育されている。そこで採れる卵や乳製品・肉やその加工品が生産されている。子供はなく、一頭の雌牛を”さゆり”と名付け、我が子同然に可愛がっている。しかし、高齢のため脚が弱ってるものの、食欲は旺盛でいまだに搾乳はできている。かたつむり農園とは切っても切れない関係で、農園の主人である立見宗二郎は一人で野菜や米・麦を栽培している。その野菜くずでさゆり牧場の餌を作り、家畜に餌をあげるのが日課で、餌は家畜によって配合を変えている。牧場主の羽多間恵視(さとし)から”えさやりがかり”と呼ばれている。その家畜からの排泄物を発酵させた肥料で野菜などを作り、収穫物をおすそ分けしている。その返しとして卵や牛乳、肉を貰い、ほぼ自給自足の生活を送っている。それら生産物は地元民にも好評で、ともに阿沙比奈村を支える産業となっている。
(つづく)