(怖い…怖いよ…)ホワイトフラッグタワー完成後、村はにぎわいをみせていたのもつかの間、そこを見渡すと黒っぽい煙のようなものが建物から出ているのだった。開業してまだ月日が経ってないにもかかわらず、だ。

 「あのタワーができてから不気味というか、変なオーラが出てるみたいだよ」

 「火事だろうか…でも消防車は止まってないみたいだし、なんだか怪しいニオイがしてくるよ…」

 「まさか、タワーにソーラーパネルが仕組まれて、そこから引火したとか…」

 「だから火事じゃないってば。炎も出てないし…」その煙の正体については、わかっていないそうだ。

 「とにかく家から出ないことだ」子供たちは我が家に着いても、友達の家に遊びに行くこともできず落ち着かない様子で外を眺めていた。大海は母・とも子に問いかける。

 「監視カメラが学校とかあちこちに仕掛けられてるし、家にもあるんだよ。だから俺たちの普段の行動が捉えられるとHAGEやそれを操ってる組織に流れてしまう。きっと阿沙比奈村を乗っ取って自分たちのものにしたいんだ」

 「大海、ママも心配よ。でも現実的じゃないと思う」とも子は他人事のよう態度を取っているが、

 「タワーから黒い煙が出てるの、わかる?」

 「何よ、それ。火事じゃないの?」

 「消防車や救急車も止まってなかったから、火事じゃなさそう。それに火も出てないし」

 「不思議よね…いったい誰の仕業なんでしょうか」

 「先生からも外に出るな、って。こんなものができてから落ち着かないよ、俺」

 「私もその噂は知ってるよ。ただ誰も言わないだけ。監視カメラに捉われると命にかかわるって…だからうかつにお出かけもできない。村じゅうの人は皆そうよ。特に女子供には真っ先に狙われる」傍で聞いていた弟の大陸や大空にはさっぱりわからないそうだった。母子4人は夕食を済ませ、宿題をし風呂に入った後、眠りについた。

 「ママ、おやすみ…」しかし、夜が来ても、外ではタワーから出る煙と騒音で眠れない。

 (うるさくて眠れないよ…)大海は眠い目を擦りながら、部屋の窓から外を覗くと、タワー周辺に人だかりができ騒音を立てていた。これには、さすがの村人も黙ってはいられない。

 「おい!こんな夜中に何やってるんだ!うるさくて眠れないじゃないか!とっとと帰れ!」すると作業員風のユニフォームを着たHAGEの部下と思われる男たちは、

 「この仕事は、この時間にしかできないんだよ!てめえらは引っ込んでろ、野次馬どもめ!でないとてめえらの命が危ないぜ」と、逆ギレした。村人たちは鳴り止まない騒音に苛立ちを感じ、ついに作戦を企てようとするが、村の至るところに監視カメラが取り付けられているため、思うように事が進まない。もし捉えられたら彼らの行動は外部のある組織に漏れてしまい、彼らの思うがままにされ、下手すると命にかかわってしまう。そうなってしまうと本末転倒だ。もはや黙って彼らの言う通りにするのが自分の身を守る上でいいのだろう。願わくば彼らを倒してくれる”ヒーロー”が現れてくれたら…と思っているが、これも”夢物語”で終わりそうだ。沈静化するはずもなく泣き寝入りするしかないと絶望的である。

 夜が明け、村は静けさを取り戻すと、ホワイトフラッグタワーからの煙は消えていた。

 (あれは何だったのか…)これで平穏な生活が送れると思っていたが、周辺は相変わらずHAGEによる監視が休まずに続けている。

 (何の目的なんだ…やはりこの村を自分たちのものにしたいのはなぜなんだ…)村人たちがぞろぞろとやってきて、ひとところに集まった。やがて一致団結して、

 「このまま黙っておくわけにはいかない。我々村人たちはなめられてしまう。奴らの思うがままにされてたまるか!奴らを倒すぞ!」かたつむり農園の主人・立見宗二郎も、さゆり牧場の羽多間夫妻も掛け声を出して敵を倒すことを誓った。しかし、相手は自分たちより体格がはるかに勝るものばかりで、とても太刀打ちできない。当然、それを耳にしていたHAGEの部下たちは、

 「こんなことをやっても無駄だ。俺たちに勝てると思ってるのか、カッペどもが」と言い放ち、それでも村人たちは、村の平和を守るために何としても奴らを倒さなくてはいけない。だが、人数も力も圧倒的に上でなすすべがない。そんな中、宗二郎が鍬を持って脅したが、その場面を監視カメラが捉えると、その映像が”ブラックインサイド”に流れてしまう。”外部のある組織”とはそのことだ。ブラックインサイドとはHAGEを闇の組織に陥れた悪の秘密結社だ。総統・ドクターネンチを中心に世界から有数の資産家で構成されている。金のためには時間や労力を惜しまず、全世界からの資産を手中に収め世界征服を目指している。ブラックインサイドに操られたHAGEも、ありとあらゆる金目のものに手を出し、その金がブラックインサイドに渡る。またブラックインサイドもHAGEへ資金を提供し、企業や団体を援助している。さらに、村の奥の方から人影らしきものが見えた。正体を現すと、格闘家のような体格でスキンヘッドにサングラスに黒い上下スーツをまとった893風の強面男があたりをうろついていた。

 (見たことがない奴だな…こいつも連れなんだろうか。あんな体つきだと一発でねじ伏せられそうだ)おそらく、このスキンヘッド男がHAGEの幹部かと思われる。阿沙比奈村を自分たちのものにし、新たに国を作り、シラハタホールディングスとともに”シラハタワールド”にするプロジェクトを実行中なのだ。噂によると、彼の正体は阿沙比奈小学校の教師・八原進助の父親の則勝らしいが、あくまで噂で断定できていない。彼は学生時代に空手選手としてならし、数々の大会に出場。賞を独り占めし、その実力は”メダルあらしの八原”と呼ばれていた。息子の進助も父に似た体格で百合園大学時代に空手部で黒帯を取得している。ちなみにスキンヘッド男のコードネームは”カッツェ”。見張り番にとなっているのは彼の部下たちだ。彼らは村人たちを見つけるたびに包囲し、カッツェから怒号が上がった。

 「さっさと取り囲め!そうしないと貴様らもそいつらと同じ目に遭わせてやる!」部下たちは言うがままに従い、村人たちを一人残らず駆逐し始めた。だが、どの家も鍵が掛けられており、ひっ捕まえようとしても、どうにもならないのだ。すると、カッツェは、

 「どいつもこいつも使えねーな!こうすればいいんだよ!」と、力づくでドアを蹴とばすと、あっさり開けられた。住人はガタガタ震えながら彼らの餌食になるのを怖れ、もはや抗えなくなっていた。

 (もう俺たちは終わりだ…)と絶望感しかなかった。HAGE一味は次々と村人を襲い、逃げ場をなくすと、

 (これでこの村は我がHAGEのものになる…二度と逆らう者はいなくなるだろう)と薄ら笑いを浮かべていた。

 

 

 

 (つづく)