一方、HAGEが全力を注いでいるシラハタワールド・プロジェクトのため、阿沙比奈村には村役場・学校・各家庭に監視カメラが設置され、サングラスに作業員風のユニフォームを着けた部下たちは昼夜問わず監視を続けながら村人が不審な行動をカメラで捉えると、たちまち彼らを餌食にしてしまう。そのため村人たちは一歩も外に出られない状況になっており恐怖と不安を感じている。そのメインであるホワイトフラッグタワーの完成も近づいている。
「我々の思い通りに進んでるな。これが完成すればこの村は我々のものだ。シラハタワールドも現実的になってきたぞ」HAGE幹部の一人、カッツェはニンマリしながら建設現場を眺めていた。彼は高身長で格闘家を思わせる体格に、スキンヘッド・サングラス・上下黒のスーツ姿でいかにも893風の外見だ。
「完成までもうすぐだ。今からワクワクしている。自慢のランドマークになるぞ」その目玉は高さ260m、50階建てという田舎にふさわしくない超高層タワーだ。急ピッチで建設が進み、完成まで間近となった。村人たちにとって、このタワーに期待する一方、複雑な気持ちが絡んでいる。また景観を損ねるなどの不評もある。
そして半年後、待望のホワイトフラッグタワーが完成した。このタワーは屋上展望台・ホテル・オフィス・シネコン・レストラン・スポーツジムやショッピングモールと様々な設備が入居している。いずれはシラハタホールディングスの本社もここに移転する予定だ。
「素晴らしい。実に素晴らしい!これで村もにぎわうぞ」同社の白畑社長は完成したタワーを眺めてご満悦だ。それに対し阿沙比奈村の毛妻次生(けづまつぐき)村長は顔をしかめていた。彼の許可なしに勝手に建設を進めていたからだ。村人たちの反対を押し切ってまで自分たちのものにしたかった。その無謀っぷりにいてもいられなかった。
「何としても止めたかった。でも今さら嘆いたところでどうしようもない。このまま奴らの楽園になってしまうのか」と悔しさでいっぱいだ。いっそのこと、自分たちの好きにさせてあげよう。HAGE一味の餌食にならないためには、その方が無難なのだ。だからといって、いつまでも黙ってるわけにはいかない、あきらめてはならない、奴らに怯まず戦っていこう、と。すると毛妻村長は、
「私に許可なく建設を進めてたのはなぜなのか」
「一応、地主には許可を取り、土地を買いとった。貴様に許しがなくてもできてたはずだ」カッツェが言い返した。
「私だけではない。村人たちも反対していた。その目的を知りたいのだが」
「知ってどうする。貴様には関係ない。これはある事情が絡んでいるんだ。それは絶対外部に漏らしてはいけないことだ」
「いっておくが、そいつらに騙されてるよ」
「なぜだ?そんなわけないだろ?何が不満だ?」
「それができたところで村が繁盛するとは思わない。村らしさがなくなり、無機質になってしまう」
「それを歓迎してる者もたくさんいるぜ。それでも貴様は嬉しくないのか?」カッツェの一言一言に毛妻村長は納得いかなかった。
(真新しいものにひかれて最初はよくても、そのうち飽きられる。だいいちこんな田舎に不釣り合いな建物を建てたところで”無用の長物”になるに違いない)
待ちに待ったオープン初日、タワー目当てに隣町の百合園市をはじめ遠方から大勢訪れ、駐車場があっという間に埋まり、客がひっきりなしにやってくる。
「順調な滑り出しだ。成功といっていいだろう」
「村長め、ざまあみろ、だよ」HAGE一味はほくそ笑んだ。ホワイトフラッグタワーのにぎわいで、シラハタワールドの現実味が帯びてきた。屋上の展望台からは村全体だけでなく周辺の海や公園、ビルなどを眺められる。レストランはシラハタファームで穫れる食材をメインに和洋中と様々なメニューがある。ちょうどランチタイムだったこともあり列を作っていた。ショッピングモールではカフェ・ファッション・雑貨など個性派揃いが数十件入居しており、来客に飽きないよう工夫されている。白畑社長は、その盛況っぷりに笑いが止まらなかった。その話題はニュースにもなり認知度が高まった。
「これだけ話題に上ればますます楽しみだね。好調さがいつまで続くか、だな」
「出だしが好調なら、ビルも何軒か建てられそうだな。”シラハタワールド”が現実的になったぞ。あとは客が逃げられないようにしないとな」HAGEの幹部・カッツェは計画通りに事が進んでるのを身をもって感じた。彼らの暴走はますます手がつけられなくなり、村を悪の道に染めて自分たちの国を作る。村人たちにはその”悪の手”が伸びていることに気づいていないのだ。
(つづく)