まりあの「遺作展」を終え、事務所では彼女が描いた星空を翔けるペガサスの絵を入り口玄関に飾った。それで終わったのではない。社長のそらはさっそくモデルのスカウトを開始するため人気の多い街を出てみた。
「さて、スカウトしなくちゃ」すると、見ず知らずの若い女性から声をかけられた。
「先日まりあさんの個展を開いていたスタッフの方ですか?」彼女はまりあの読モ時代の仲間、朝日奈菜月だった。「EMILS」ではまりあと1,2を争うほどの人気であった。その後、結婚したが、子供はまだいない。
「個展、素晴らしかったです。今後このような企画があればぜひとも声をかけてください」
「見に来てくださったのですね。ありがとうございます。楽しみにしてください」とそらは彼女に伝えたいことがあった。
「ちょっとお願いがあって…」
(え…?)菜月は何も言えない表情をしていた。
「実はうちのモデルになってもらいたくて…」いきなりの一言で菜月は返答に困っていた。
「今は考えていません。ごめんなさい…」
「そうですか。残念です。私はこういう者です」と、そらは自分の名刺を差し出すと、
(「スカイペガサス 社長・天馬そら」…?)菜月は名刺を手にしながら、
「これから用事があるので、失礼します」と、この場を去った。
(まりあさんの仲間だったから上手くいくと思ってたのに。こんなちっぽけで聞いたことがない事務所で働きたくないのだろう…)と、そらはガックリ肩を落としていた。
「でも、まだあきらめないわ」彼女はスカウトを続けるが、ことごとく断られた。事務所に帰ると、
「連戦連敗だったわ。まりあさんの読モ仲間にも声をかけたけどダメだったわ。大手なら喜んで行くのだろうけど、うちみたいなちっぽけなところでは寄り付かないよね…」そらはしょんぼりしていたが、思わぬ助っ人が彼女を援護した。裕一郎をスカウトした九十九遥が、
「社長、君だけでは力不足ですよ。私も手伝うよ」
裕一郎も、
「俺も協力する。ピコ、お前も一緒にな」
「それは心強いです!必ず成功できますよ!」
「俺をスカウトした手腕を信じなよ」彼らは再びスカウト活動を始めた。
(あれ…?もしかして、裕一郎…?やっぱ実物はカッコイイ~)
「ゆうちゃんサインして~」
「キャー振り向いて~」
「こっち向いて~ステキ~」
「悪い、今それどころじゃないんだ」街歩く人たちは三人を見ると裕一郎ばかり目についてしまう。彼の場合、他の三人より身長が図抜けて高いから一層目立つ。
「なかなかいねーな。あれだけ人波があるのに…」裕一郎はため息をついた。
「今日はあきらめよう…」その時だった。後ろ姿の綺麗な華奢な女性が歩いていた。
(この人はまさにモデル向きだ…声をかけてみよう)
「そこのお嬢さん!」
「え?!」彼女は振り向いた。背中の真ん中まである長い黒髪に、スラリとした美脚、透き通るような白い肌、こぼれる白い歯、まぶしい笑顔、見るからにキラキラしていた。
「もしかして、あなたは人気モデルの水林裕一郎さん?」
「俺のこと、知ってるんだ」
「ええ。私はあなたのファンなんです。こうやって会えるのは運命を感じています。握手してくださいませんか?」裕一郎はその女性と握手をした。
(なんて温かく大きい手…まるで私を包んでくれてるよう…)
そらは、
「私の事務所で働いてみませんか?この事務所には裕一郎さんはじめ、数名のモデルさんがいます。皆、優しくて素敵な方ですよ」
「まさか憧れの裕一郎さんと一緒にお仕事できるなんて!嬉しいです!」彼女は前向きに考えていた。そらたち四人は事務所の名刺を渡し、
「何かあったら、そちらに連絡してください」と伝えた。すると四人は手ごたえをつかんだ。
(「スカイペガサス」…?聞いたことがないわ…まだできたばかり…?)彼女は聞いたことがない名前に戸惑っていたが、前向きでいるのは変わりはない。
(つづく)