発信先は”本命”の彼女、朝海絵麻からだった。裕一郎がサプライズ出演していたミュージカル”猫のみやこ”の主演女優だ。

 

 「実は俺…」彼は白い歯をのぞかせながら、

 「近いうちに会って、生まれ変わった俺を見てほしいんだ」と話した。

 

 「まぁ、楽しみね。私がいつも行ってる駅前のカフェでいいかしら」と、二人は数日後に会う約束をした。

 

 そして数日後、二人は絵麻が常連になっている駅前のカフェで久しぶりの再会をすると、彼女は裕一郎の変わりっぷりに驚いた。

 

 「ゆうちゃん、歯が綺麗になってる。それに歯並びも!まるで別人ね。輪郭もシュッとしてるし。それまではちょっと下膨れだったもの」

 

 裕一郎は満面の笑みで、

 「えへへへ…もうドラキュラじゃなくなったよ。でも、またサプライズがあったら呼んでくれよな」

 

 「その時になったら、役柄を考えておくわ。ドラキュラ演じられなくなったのは寂しいけど、笑う時に口元隠さなくなったから魅力爆上がりよ」

 

 「喜んでくれるだけでも嬉しいよ。人生バラ色になりそうだな。それから禁煙もしたよ」

 

 「そういえば、ゆうちゃんヘビースモーカーだったもの。よく止められたね。顔の色つやも瞳の輝きもぐっと良くなったみたい。ゆうちゃんの顔色もバラ色だよ」

 

 「ハハハ…上手いこと言ってるな。それより長年いた事務所を畳んで、新しい事務所を立ち上げたんだ」

 

 「どうして?」

 

 「トラブルがあってね。俺の専属だったスタイリストが週刊誌に取り沙汰されてね。恥ずかしかったよ。しかも奴が大事なショーもブチ壊してね。そればかりじゃない。読モからやってたモデルも先日、亡くなったんだよ」

 

 「えっ?知らなかった。私、読モのことはあまり知らないから…」

 

 「この界隈では結構名を馳せてたんだ。彼女もショーに出る予定だったけど、そのスタイリストが台無しにさせてさ。だから専属を切ったんだよ」

 

 「ひどいことをしたんだね…謝りもしなかったの?」

 

 「謝るどころか、社長はかばってたよ。あるまじき行為じゃないだろ?しかも、いきなり事務所をやめちゃって。あいつ、すぐにキレるから正直苦手だったよ」

 

 「よかったじゃない。で、新たに決まったの?」

 

 「ああ。新しい事務所の社長になった人だよ」すると、そらが二人の前に現われ、

 

 「そら、どうしたんだ?」

 

 「こんにちは。ちょっと抜け出しちゃった。たまの息抜きもいいでしょ」と、彼女は二人にいるカウンターの隣に座った。

 

 (もしかして、この人が社長…?なんかハーフというか外人というか…)

 

 「はじめまして。”スカイペガサス”の天馬そらと申します」

 

 「私は”劇団にーきゅっきゅ(299)”の朝海絵麻です。ミュージカル女優をやっています」

 

 「彼女が俺の専属スタイリストになったよ。でも外人じゃないよ。髪や瞳の色でそう見えるけど、れっきとしたニホンジンだよ」

 

 「一人前になるまでまだまだ時間がかかるし、皆の足を引っ張らないようにしなければ」

 

 「飾りっ気のない素朴な方ですね。私は好感が持てます」

 

 「だろ?努力もせず、金の力だけで生きてきた前任とは大違いだよ」

 

 「二人ともそう言ってもらって嬉しいです。ますます仕事への意欲が湧いてきました」

 

 「そらちゃんでしたっけ?これからも、ゆうちゃんをよろしくお願いします」

 

 「こう見えても我が事務所の社長だよ」

 

 「そうなんだ。若いのにしっかりしてるね」

 

 「駆け出しだから、まだわからないことだらけだし、皆に助けられながらこの事務所を育てていきます」

 

 「頼もしいですね」と、絵麻が言うと、

 

 「とてもそのレベルになるまではほど遠いですよ」そらは謙遜するが、

 

 「心配しなくても大丈夫。あなたは一人じゃないのよ」

 

 「その一言に心を打たれました。自分一人では何もできない。だから一丸となって事務所を名前の通り発展するのが私たちの願いです」

 

 「ありがとう。頑張ってくださいね。私は応援しますよ」

 

 「こちらこそありがとうございます。お互いに頑張っていきましょうね。私はこれで失礼します」と、そらは店を出た。

 

 

 (つづく)