やがてモデル仲間やスタッフたちも葬儀場に到着。すると、まりあの変わり果てた姿に棺の前でむせび泣いた。棺に納められた彼女は青白い顔だったが、玉恵によってメイクを施され、濃い目のファンデーションに薄紅色のリップを付けた。その表情は穏やかで、まるでモデルとして生き返ったように感じた。その時、彼女はあることを思いついた。

 「そういえば、まりあちゃんが”ミドコレ”で着る予定だった衣装があるけど、それを棺に納めましょうよ」

 

 「なるほど!きっと天国でショーを開くかも」

 

 「ちょっと事務所に行ってくる!」

 まりあが”ミドコレ”で着る衣装を「Office MIDORI」まで急いで取りに行った。

 

 「早く戻ってきてね~」

 葬儀場からは歩いて三十分はかかる。玉恵は息を切らしながら走っていった。

 (こんな時、自転車があれば…)やっとの思いで事務所に着くと、

 (これだわ…これをまりあちゃんに…)彼女はその衣装をクローゼットから取り出して葬儀場まで持っていき、まりあの棺に納めた。唯子やそらたちは、

 

 「すごーい。すごく似合ってる。こんな姿でショーを見たかったのに…」と残念がっていたが、まりあにとって天国でその夢が叶うのだろう。

 

 彼女が入院中、ベッドの脇や枕元には自分が描いた絵画が数十枚置かれていた。無菌室にいる以外、退屈な入院生活を紛らわせるため、クレヨンや色鉛筆をで風景画などを描いていた。画家としての顔も持っており、両親はいつかはこれらの作品を遺作展として開きたいと考えているそうだ。いずれは実現しそうだ。

 

 「それ、名案です!素晴らしい作品ばかりだし、彼女の画家としての評価もますます上がりますよ」玉恵たちスタッフもその案に喜んでいた。

 「まりあさん、絵が上手ですもんね。読モ時代のファンもたくさん見に来てくれると思います」

 

 やがて、「EMILS」時代の読モ仲間、ファンが次々とやってきて、まりあの亡骸と対面すると、途端に泣き崩れた。

 「ま…まさか…まりあちゃんが…ともにしてきた仲間…あなたが心の支えだったのに…悲しすぎる…」

 

 「死ぬのはまだ早すぎる!自分の親より先に逝くなんて…!」

 

 「こんな綺麗な姿で、あの世に旅立つなんて…」

 「EMILS」の読モ仲間たちは彼女の死を受け入れられない様子だった。

 

 そして告別式当日ー

 家族や親族、職場や「EMILS」時代の読モ仲間、大勢のファンたちが参列した。その中にはすでに職場を去った翠もいた。祭壇には優しく微笑むまりあの遺影が飾られていた。遺族を代表して、父の麟太郎が挨拶をした。

 

 「本日はご多用にもかかわらず娘のためにご会葬、ご焼香を賜りましてまことにありがとうございます。存命中はモデルとして活躍されておりました。モデルとして軌道に乗り娘なりに仕事を楽しんでおりましたところ、末期の白血病だったのがわかり、しかも全身にわたり転移していました。長く生きてもせいぜい一年、私たち親はとてもショックで夜も寝付けないほどでした。それでも娘は病と闘い入院生活を全うしました。大好きな絵も描いていました。それだけが入院生活の楽しみでした。必ず回復してステージに立つ、と意気込んでいましたが叶うことなく私たち家族が見守る中、安らかに息を引き取りました。二十七歳という短い生涯でしたが、娘にとっては”太く短い”人生だと思っております。私たちの想いは天国に旅立っても変わりません。皆様方のご厚意を厚く感謝いたしますとともに、今後も我々遺族や友人へ故人同様のご指導、ご鞭撻をよろしくお願いいたします」

 

 参列者たちは、最後の別れとして、メッセージを書いた手紙や花束が、まりあの棺を覆いつくし、涙を流した。そして出棺。親族たちが棺を担ぎ霊柩車に乗せると火葬場に向かった。参列者たちは手を合わせ、静かに見送り彼女の冥福を祈った。

 (まりあちゃん、どうか安らかに。またモデルとして生まれ変わってきてね…)

 

 翠は社長のエツコとともに、

 (まりあ、あんたにさんざん嫌な思いさせてすまない。天国でもモデルでやってくれよな)と、仲間の死を偲んだ。

 

 二十七歳ーまだまだこれからだというのに、人生終えるのはあまりにも早すぎる。ウエディングドレスを着たかっただろう。子供を産んで抱っこしたかっただろう。幸せな家族を築きたかっただろう。お金を貯めてマイホームを建てたかっただろう。まりあもきっとこんな夢を描いていたのだろう。

 

 

 (つづく)