翌朝ー

 「あ~よく寝た。でもまだ酔いが残ってる…頭も痛いし、仕事休もうかな…う~ズキンズキンする~」翠が起床した。だが昨夜、裕一郎の妹で学生時代の友人の咲子と飲みまくっていたせいか、酔いが残っていた。頭痛もして起き上がるのがやっとだった。

 

 「おーい、仕事遅れるぞ。俺と萌のメシも出来てないじゃないか。いくら酒が強いからって、ほどほどにしとけ、って言っただろ」

 

 「ごめーん。今日は我慢して。頭めっちゃ痛くて作れないわ。悪いけどよそで食べてきてね~」

 

 「じゃ、コンビニでパンかおにぎりでも買って食っとくわ。萌も保育園送っとくから」

 

 「ありがと~。ゆっくり休んで明日に臨むから。いってらっしゃ~い」翠は夫と萌木を見送った後、再びベッドに横たわり、この日は仕事を休んだ。

 

 一方、「Office MIDORI」では「ミドコレ」に向けて準備が進んでいた。翠がいない分、スタッフたちは真面目に取り組んでいた。新人見習いのそらも先輩たちについていた。

 

 「そらちゃーん、のあちゃんには暗めの落ち着いた感じがピッタリだから、コーデお願い」

 

 「はーい」彼女は翠がいないのもあって、のびのびと自分らしさを出して衣装選びをしていた。

 (そらちゃん、チーフがいないと自分の力を出してるね。チーフがいればダメ出しばかりするんだもの。私、チーフははっきり言って苦手)

 

 「それ、いいじゃない!そらちゃん、なかなかいいセンスしてるよ!チーフは見抜けないのかしら」 

  (スタイリストの能力はあっても、それを上手く引き出す能力がなければ…ね)

 

 「初めて褒められちゃった。嬉しいです」と、そらははにかんだ。

 

 「いつもチーフからクソミソ言われてもよく耐えてたもんね」

 

 「ほんと、のびのびというか、いきいきしてるね。普段私たちに見せない姿よね」と唯子。

 

 「伸びしろあるんだ。それって”能あるナントカは爪を隠す”ってこと?」玉恵も唯子に続くように言った。

 

 唯子をはじめ、先輩スタッフたちは皆優しく、そらの働きぶりに目を見張るものがあった。彼女も普段見せることのない笑顔を見せて自信に満ちていた。

 (チーフがいないとやりやすかった…でも明日からはまた…)ひと安心したものの、明日から再び地獄を味わうことを考えると、やる気をなくしてしまうのであった。

 

 次の日、翠が出勤。まだ頭痛は残ってるものの、仕事には差し支えなさそうだった。

 「おはよう!皆心配かけてごめんね~」

 

 「おはようございます。もう大丈夫なんですか」

 

 「バリ元気よ~うまく事が進んでるの?」

 

 「ええ。これはいかがでしょう。素晴らしいコーデですよ。裕一郎さんのイメージに合ってるでしょ?」スタッフの一人、唯子が裕一郎用にコーデした衣装を翠に見せると、

 

 「うわあ、だっさ~。誰よ、こんなダサいコーデ考えたの」

 

 「そらちゃんですよ」

 

 「やっぱそうだったんだ~。田舎者にコーデさせたらイモっぽいし、センス皆無~。ゆうちゃんが可哀想~。だいいち、ゆうちゃんのコーデはあたしの担当でしょ!」

 

 (私、余計なことしちゃったのかな。チーフが気に入ってくれると思って考えたのに…彼のコーデはチーフに任せるべきだったのかな)

 

 (つづく)