ワイルドローズ島の島民はリッピィたちの活躍に、

「ありがとう。おかげで助かったよ。こう見えても頼りになるな」と喜び、

「この島はどうなるかと思ってたよ。やっぱり幸せを運んでくれたんだね」

「もうこんな苦しい生活は二度と味わいたくないよ」

「顔に不潔な布を着けるのから解放されてよかった」と、口々に語った。

「そもそも元凶はあれだったんだな」破壊され瓦礫と化したリリーホークを指さした。

「それにしてもグロテスクだったな、あのバケモノ目玉。いかにも支配者の象徴らしかったよ」

「何が”疫病退散”だ。奴らの単なる自己満だったろうよ。壊されて清々してるよ」

 リッピィは、

「綺麗なお顔に”花”を咲かせましょう」と、ようやく鼻と口を覆っていた布が外れた島の女性たちにカラフルな口紅を付けた。その口紅を長くしたような杖を振りかざすと、あれよあれよと、まるで魔法にかけられたかのように美しく変身した。

「わぁ、皆さんとても素敵です!」リッピィはゴキゲンだ。

「やっぱり口元は大事なんですね。華やかになって鏡を見るのが楽しくなっちゃった」

「なんだか元気が湧いてきたみたい。リッピィの魔法ってほんと素晴らしい」

「マスララさまのメイクアップも素敵だけど、それ以上に素敵!」彼女たちの魅力は目元よりも太陽のような笑顔と華やかな口元、ワイルドローズ島を象徴するかのような白い歯。どんなに目元が綺麗でも口元に魅力がなければ美しいとは限らない。彼女たちの笑顔はまさに陽を取り戻したワイルドローズ島そのものを写し出されてるようだ。

 そして、リッピィたちはワイルドローズ島の島民に別れを告げた。

「島に平和が戻って本当によかったです。もしものことがありましたら、私たちを呼んでください」

「でも、どうやって呼ぶんだ?滅多に現れないのに」

「とっておきの言葉を教えます。”いがねお、てけすた”」

「なんだか不思議な呪文だね。ありがとう。また頼んだよ」

「どうかワイルドローズ島の皆さん、末永くお幸せでありますように。私たちは自分の庭に帰ります。さようなら」

「ピーピッピピピピー(皆さんさようなら)」ポッペも島民との別れを告げ、

「さようなら!リッピィ!そして仲間たち!」ワイルドローズ島の島民たちはリッピィたちの別れを惜しみ、リッピィたちは”リッピィガーデン”に帰った。

(きっとリッピィたちは交流を絶たれたルージュ島と再び行き来するためにやってきたのかもしれない…)

 

 シャトゥ城では”居候”となっていたヤーダ三姉妹に別れを告げるときがやってきた。海外に長期出張で不在だった父・ケーゾが三年ぶりに帰ってくるのだ。帰宅前日、母のホークがシャトゥ城へ迎えに行った。リッピィたちによって崩壊された”リリーホーク”を見て驚いたものの、そのおかげで平和が戻れたと喜びでいっぱいだ。マスララの表情にも穏やかさが出てきた。

「マスララさま、今までお世話になりました。何かとご迷惑をおかけしましたが、貴方のおかげで娘たちも強くなれたと思います。本当に感謝しています」

「ホークさん、お嬢さんたちもずいぶん逞しくなりました。初めはワガママで喧嘩が絶えなかったけど、皆で力を合わせ助けあいながら頑張ってきました。わたくしは大変だったけど、これもいい経験になりました」マスララは涙をこらえながら話した。そして、

「お嬢さんたちにとって貴重な体験をしたのではないでしょうか。きっと、これからの人生に役立ってくれるでしょう」

「こちらこそいい経験をさせていただきました。娘たちの成長ぶりにただ嬉しい限りです。本当にありがとうございました」ホークは眼を細めながら喜びと感謝の気持ちを伝えた。

「それではお嬢さんたちにこれをさしあげましょう」マスララは自分の好きな花であるホワイトリリーをプレゼントした。三姉妹は、

「わぁ、綺麗!マスララさまと思って大切にします。ありがとう」と喜んだ。

「この花は”純潔””無邪気”。まさにあなたたちにピッタリね」

「マスララさまに褒められちゃった。こんなの初めて」彼女たちはマスララの優しさに涙があふれ、ホークも感激した。

「マスララさま、実は私、アクセサリーデザイナーだけで頑張っていきます」

「ナースは辞めるのですか?」

「ええ。先日退職届を出しました。少しでも娘たちとふれあう時間がほしくて。さすがに二足のわらじはきつかったです」ホークは昼夜勤めていた病院を辞める決心をし、アクセサリーデザイナー一本にして新たな出発を始める。

「それはよかったです。お嬢さんたちにとってもよかったのではないでしょうか」

「私が構ってあげられなかったせいか、娘たちもギスギスしていたのかもしれません。まだまだ甘えたかった年頃だったのに」

「しっかり者のマーサ君がいなくなってから尚さらですよね。それなら十分甘えてもらえますよ。またいつかホークさんのアトリエにお邪魔させていただきます」

「それまでに腕をどんどん磨かなきゃ。もっと素晴らしいビーズアクセサリーをプレゼントしますね」

「わぁー、楽しみです!」そしてホークは、

「これからはワイルドローズ島の平和と幸福を守ってください。くれぐれもお体に気をつけてください。私たちはこれで失礼します」三姉妹は住み慣れたシャトゥ城にお別れの挨拶をするが、とうとう号泣し、マスララに抱きついた。

「おばちゃん、じゃなかった、マスララさまを困らせてごめんなさい。お城暮らしが終わって寂しいけど、私たちはお家に帰ります。またいつか遊びに行きます。ありがとうございました」

「ほら、もう泣かない!寂しいのはわかるけどいつまでもあなたたちの面倒は見れないよ。お家に帰れるからよかったじゃない」

「無邪気で可愛い笑顔はずっと忘れないよ」家来たち、城の住人も彼女たちの別れを惜しんだ。

「みんな楽しかったよ!いつでも遊びにおいでね。それからみんな仲良くしようね!待ってますよ」

「はーい」マスララは手を振りながらヤーダ三姉妹が帰っていくのを満面の笑みで見送った。

「ナーツ、キーヨ、ユーカ、元気でね!」

「マスララさま大好き!」

(あの娘たち、やっぱり家族といる方が幸せでしょうね。わたくしはいつまでも見守ります)と、彼女たちの幸福を祈った。

 

(つづく)