そのときルージュ島では、ワイルドローズ島とは対照的にポカポカ陽気に包まれ、四季折々の花々が色とりどり咲き誇り、のどかな雰囲気を醸し出している。
そこで、ルージュ島の女性たちにも触れておこう。彼女たちは小麦色に日焼けした健康的な肌、白い歯がこぼれる笑顔が魅力的だ。また口元には赤オレンジピンクといった口紅を付けていて、まるで花が咲いているかのように彩りがある。もちろん顔の下半分は覆っていない。自然体で生きているのだ。
「ねぇ、そういえばシャトゥ城では姫さまのメイクアップ教室が繁盛してたって!」
「ふーん、どうせ眼だけのメイクでしょ。そんなもの興味ないし。やったところで美しくなれるわけないもの」
「なんといっても、あたしたちの魅力は小麦色の肌と白い歯よ。とても敵いませんわ」
「目元なんてどうでもいいよ。どんなに不細工でも太陽のような笑顔があれば、自ずと自信が持てるようになるのに」
「それなのに、そんな魅力的なパーツを隠しちゃうなんて、あーぁもったいない」
彼女たちはくすくす笑いながらワイルドローズ島の女性たちを蔑んでいたが、元々は彼女たちも鼻や口を隠していなければ魅力的な美人揃いなのだ。それなのに眼だけよければ美しいとか綺麗だと勘違いをして顔布生活をエンジョイしている。すっかり習慣化し、一生外したくない者も多い。彼女たちにとって、それが衣類としてみなされており、ここまでその生活が長くなると外すのに躊躇するだろう。また”他人に移したら…”といった罪悪感もある。本人たちはどうすれば納得して外すことができるのか、まだまだ時間がかかりそうだ。
(可哀想だけど、そっとしておきましょう。時が解決してくれるかもしれない)と。
「ところで彼女、特撮ヒーローみたいに変身したんだって。今ごろあの島では大変なことが起きてるそうよ」
「暗闇になって何も見えないの。あたしたちで何とかしたいけど…」
それでも、ほうっておけない。疫病騒動が起きる前はお互いに行き来していた。それに戻さないと、の想いがあるのだ。
噂によると、この島には妖精が現れるとのことだ。全身がピンク色でチューリップのつぼみのような頭、顔には真っ赤な口紅を付け、小鳥のような羽、手には口紅を長くしたような杖を持っている。その杖を振りかざすと幸せをもたらし美しい心に浄化させる。だが、見かけた者はルージュ島の島民にはほとんどいない。名前は”リッピィ”。歌とお花が大好きな花の精、普段は自分が手入れをしている”リッピィガーデン”に生息している。見かけた者はたちまち幸福になれるという。
この島が赤く染まったように見えるのは川がなく、あちこちに池があり、それらが夕日に当たると水面が赤く映しだされる。まるで赤いじゅうたんを敷き詰めたようだ。島の名前もそこから付けられた。どうやら”主”がいるという噂があるが、明らかではない。また、この島の特徴として、赤い屋根の家が建ち並んでいることだ。”リッピィガーデン”はその中にポツンとあり、色とりどりの花がにぎわいを見せている。そのルージュ島にも暗雲が立ちこめた。闇に包まれたワイルドローズ島からの風が流れてきているからだ。
(ヤバい、ヤバいぞ!こっちに来るぞ!こうなると俺たちも…)
(あのマスララがバケモノになったらなすすべがない。あいつによって潰されるのはまっぴらゴメンだ)
(とても倒せないよ…もうどうすればいいんだ…)
島民は明るい雰囲気とはうってかわって絶望感に襲われた。やがてワイルドローズ島と同じ運命を辿ることに不安視していた。だが、それで終わらないのが、彼ら住人や生き物だった。
”リッピィガーデン”では、カラフルな花々がにぎわいを見せ、生息してるであろう”リッピィ”が現れる噂だったが、遂に現われたのだ。
(つづく)