ワイルドローズ島では島民各々で「顔を覆ってない奴はいないのか」と昼夜監視をし、見つけ次第制裁を加えている。見つかった者はウォーターガンや催涙スプレーで襲い、牢獄送りを日々続けている。顔の下半分を隠す生活が長くなり、狂暴化し皆同じ顔にしか見えず没個性でまるでロボットのようだ。しかも眼つきだけが獲物を狙ってるかのように鋭く光っている。その形相は悪魔にとりつかれたかのようだ。顔を隠すことで(自分は何をやっても許される。たとえ悪いことをしてもお咎めなし。自分は強くなれた)と誇示し、外すことを嫌う。人々の心は荒み、逃げ場を失ったかのように見えた。それどころか、疫病は収まる気配がない。
(あれだけやってても我々の努力は無駄になってしまうのだろうか…もうきっぱりと止めたほうがいいのか…)
ミッキー・ネンチの診療所の待合室では、謎の伝染病患者であふれていた。
「困ったもんですね」と彼は呆れ顔だった。
「ここまで多いとさすがにうちでは診れませんよ。島の病院へ回ってもらえませんかね」
「島に一軒しかない病院にですか?そこもそんな状態じゃないですか。どうせ行ったところでたらい回しですよ。貴方はそれでも医者ですか」
とうとう”医療崩壊”寸前になり、高熱でフラフラする者、咳が止まらない者、鼻水が止まらない者と、様々な患者らが待合室でおとなしく待っていた。
(このままでは力尽きそう…)患者たちはあきらめ気味だった。そこでミッキーはあることを思いついた。
「それではとっておきの注射をしましょう。それなら皆さん安心しますよ」彼は症状で苦しんでいる患者たちに次々と注射を打った。すると、みるみる症状が軽くなっていた。
「すごい!奇跡だ!これで厄介な伝染病も収まるぞ」
「まるで魔法にかけられたみたいだ」
「もっと早くやればよかったよ」患者たちは大喜びで、その注射は人々の希望を与えた。
「先生、ルージュ島の奴らも今ごろ苦しんでるだろうな」
「たぶんそうでしょうね。そっちにもかなり広がっているそうですよ」
「でも、あちらはのん気なもんだね。誰も顔に布着けてる人いないそうだし…」
「どうせ我々みたいになるでしょうね」
一方、ルージュ島では、相変わらず穏やかな暮らしを続けていた。人々には笑顔が絶えず温もりや優しさが満ちあふれていた。
だが、恐れていた事態がついに起こった。島に患者が出たのだ。しかし、彼は落ち着いていた。
「なんだ。ただの風邪じゃないか。大したことないさ」
彼らは口々に、
「あんなことを続けても収まるわけないよ。大袈裟なんだよ。何いつまでも馬鹿げたことやってるのか」
「でも広がったらヤバいですよ。もし自分らに鼻と口を布で覆ってくれ、と言われたら…」
「窒息するじゃねーか」
「そうだよ。やったところで変わりはしねーよ」
「とにかく笑って過ごすことだ。そうすれば流行病も逃げていくよ」
「それより見ろよ。あっちは黒い雲で覆われてるぞ」
「日頃の行いが悪いんだよ。こっちには来ないから心配いらねーけどな」
彼らはワイルドローズ島を見渡すと、不気味な光を放っていた”リリーホーク”の輝きは失われ、あたり一面真っ黒な雲に覆われ怪しげな雲行きだった。白くまぶしい美しい島が闇に包まれたのだ。
(な…なんなんだ、この空は…今にも降りそうだぞ)
(もしものことがないよう、早く避難する準備を!)ワイルドローズ島の島民たちは焦りと不安に苛まれていた。そのとき、突然激しい嵐がワイルドローズ島を襲った。
「うわああああ!こっちにやってくるぞ!早く逃げろ!」
「急げ!飲み込まれてしまう」
「船がひっくり返るぞ!港の岸壁に寄せておけ」
「とにかく安全な場所を確保することだ」島民たちは安全な場所を確保し、避難を始めた。
「そうだ!ルージュ島に行くがいい」
「何いってるんだ。あそこへは行けないようにしてあるぞ。橋を渡れないように封鎖されてるからな」
「船があるじゃないか」
「でも、あんなにしけっていてはとても無理だよ。定期便も運休になってるし、自家用クルーザーだって同じだよ。無茶すると飲み込まれてしまう」
「もう自宅待機するしかないよ」
「そうだな。静まるのを待つだけだ」
島の唯一の交通手段も運休になり、彼らはあの手この手を使って避難する方法を考えてたが、結局この方法しかなかった。
(つづく)