月日が経ち、顔に布を着けた人々であふれ返るワイルドローズ島では疫病が収まるどころか、酷くなる一方だ。

(皆、鼻や口を覆っても収まってないじゃない)

(あんなバケモノみたいなヤツ建ったところで疫病退散になってないじゃねーか)

 島民たちはその意味がなくなっていることに気づき始めた。最初のようにバタバタ倒れていく姿は見かけなくなったものの、顔を覆う布に関しては「着けるのが当たり前」「慣れた」「楽ができる」などと、その布が民族衣装のように定着していた。また若い人、特に容貌に自信のない女性にとってはその布に恩恵を受けており手放せなくなっている。外すことに抵抗し、すっかり"顔の一部”となってしまった。まさに”魔法の布”だ。そこでマスララは”アイメイクの達人”として容貌に悩める彼女たちのためにメイクアップレッスンを開くことを提案した。

(きっと別人のように変身して綺麗になれる。皆喜んで参加してくれるわ)容貌コンプレックスは本人たちでないとわからない。せめて隠れていない目元だけでも綺麗であれば”美人”と言われても違和感がないのだ。そのレッスンにはヤーダ三姉妹も手伝う。

「マスララさま、それは名案です。私たちもお手伝いします」と長女のナーツが言うと、

「ありがとう。たくさん来てくれたら嬉しいよね」

 希望者が殺到したため、数日後にマスララのメイクアップレッスンを開くことになった。

 そして当日を迎え、シャトゥ城には大勢の参加者が列を作って並んでいた。

「すごい人ね。でもこんなにたくさん来てくれて嬉しいわ」予想以上の盛況ぶりにマスララたちは嬉しい悲鳴をあげていた。ヤーダ三姉妹もぎこちないながらもマスララの手助けをする。

「マスララさま、私たちにできることがありますか」

「あなたたちは皆に静かにしているよう見てるだけでいいよ」

 レッスンは着々と進み、参加者たちも口々に、

「わぁ~別人みたいに綺麗になったわ」

「鏡を見るのが楽しいです」

「おめめパッチリがますますパッチリになったわ。我ながらウットリ~」

「さすが”アイメイクの達人”と言われるだけあるよね。眼がチャームポイントの自分にとってはさらに魅力爆上がりよ~」

 だが、物足りない。皆同じ顔に見えて個性のカケラもないのだ。目元を飾ったり盛ったりしていても華や彩りもなく、黒や茶、紫といったダークカラーでまとめられ怖さしか感じられない。しかも眼に生気がないのだ。

(やっぱり口元って大事なのよね…)マスララは口元が布で隠れ目元しか見えない顔に優しさや温もりが感じないことに、正直美しさは想像できないと思った。その時、ドクター・オンサイドがレッスンに来ていた。

「マスララさま、お久しぶりです。レッスン盛況してますね」

「ええ。おかげさまで。でもそれが…何か物足りなくて。皆同じ顔に見えて、まるでロボットみたいに…」

「ま、こんな状況では仕方がないですよ。眼だけで感情は十分伝わります。”眼は口ほどに物を言う”っていうじゃないですか。皆そうやって感情表現してるのですよ」

「そうですか。その諺、聞いたことがあります。だけどそれは顔全体を見て意味が成すのではないでしょうか」

「いや、アイコンタクトだけでも大丈夫です。コミュニケーションの基本は相手の眼をしっかり見ることだから」

「眼で会話、なんですか。皆さん超能力の持ち主なんですか」とマスララは苦笑いをしながら、

「でもオンサイドさんの言ってることは間違っていないわ。しっかり守らないとね。ところでミッキーは元気なの?」

「元気ですよ。この間、私が作ったクマのぬいぐるみをプレゼントしました。そのぬいぐるみ、ただのぬいぐるみではありません。ちゃんと言葉がわかるように仕掛けておきました。先生、”ケンベアー”と名付けて可愛がってますよ」

「よかった。それにしてもぬいぐるみにまで生命を吹き込むなんて。さすが発明家ね」

「私にできることはこれくらいですから…」オンサイドははにかみながら微笑んだ。

「マスララさまにもプレゼントします。楽しみに待っててくださいね」

「ありがとう。楽しみにしてるわ」

「では私はこれで失礼します」と、彼は自分の研究室に帰った。

(もしかしたら”リリーホーク”の異様な光は彼の仕業だったのかしら?)マスララはようやく原因がわかってきたようだ。この日はこれまでの不気味さはなくなり、彼女は穏やかな表情を見せていた。

 

 

(つづく)