その時ルージュ島では、
「なんてことだ!ワイルドローズ島の奴らがおかしくなったぞ!」
「どうかしたのかね?」島の長老であるシャックが言った。
「奴らはみんな顔に変な布を着けて、そこらじゅうウロウロしてるんです」
「そういえば謎の伝染病が流行ってるのだな。おそらくこっちにも広がるだろうな」
「あちらでは人々がバタバタと倒れてるらしい。こっちも油断できませんよ。もし広がったら奴らと同じことになりますよ」
「だからああやって広がらないようにしてるんだな」
「でも気持ち悪いです。いきなり顔覆ってさ」
「その布で鼻と口を覆えば伝染病を予防するそうだ。また他人に移さないためもある。もしもだ、そいつが健康体だとしても病原体を持ってたらどうする?そいつに移される場合があるぞ。だから皆、変な布を着けて広がらないようにしてるんだ」
「どこも具合が悪くないのに、そんなもの着けてられませんよ。雨が降ってないのに傘をさしてるようなもんですよ」
「あっちの考えだと”人を見れば病原体と思え”だよ」
「それはまるで”もし犯罪を犯すかもしれないから逮捕しておけ”と言ってるみたいです」
「だな。そんなものクソくらえ、だよ」
「なんかの宗教にのめり込んだみたいで怖いです。しかも、その布を外すのはもちろんのこと鼻を出すことも許されないのです。それが見つかったら即ブタ箱送りされてしまう」
「ま、どうせ奴らも騙されるのに気づくだろう。でも、その頃には手遅れになるがな」
「それにしても、酷すぎますよ。可哀想です」
「仕方ないよ。だけどああはなりたくない。あんなショボい布で守れるわけがない。信じるもんか」
「最初は人がバタバタ倒れてるところをニュースで観てたけど、あれから何も起きてませんよ。ワイルドローズ島ではちょうどそんな感じになってるが、いずれは落ち着くでしょうね」
「そうだな。ほっとけば収まると思うよ。奴らはTVの言ってることは鵜呑みにするからな」
「メディアに翻弄されて馬鹿を見る、じゃないですか」
「奴らからしてみれば大袈裟な病気と思ってるからね」
「それなのに、ペラペラな布だけでは不十分じゃないですか。それだけ大袈裟なら全身ミイラみたいにグルグル巻きにしないと」
「ハハハハ…」
ルージュ島の人々はいたって冷静だ。シャックをはじめ冗談交じりで口々に話していた。いずれはかつてのにぎわいを見せたワイルドローズ島に戻ってくれるのを信じて…
「それより病気に負けない体作りをしなくてはね」
「わしは早寝早起き、好き嫌いなく食べること。そしてよく笑うことだ。アハハハ」シャックは豪快に笑いながら言った。
「よく笑うことは免疫力アップにもつながってますものね。シャックさんの元気の源ですね。俺たちもああならなくては」
「そうすれば変な病は寄せ付けないよ。薬も注射もいらない。おかげで生まれてから一度も大病患ったことがないよ」
「そういえば”病は気から”っていいますよね。ストレス溜めないこと。くよくよしないこと」
「そうだな。気合いで乗り越えないとな」
ちなみにルージュ島には病院がない。小さな診療所が一軒あるだけだ。
「それで長生きできるのですね。素晴らしいです。ところで向こうは夜でも日が沈んでないくらいに明るいし何か不気味です」
「確かにそう感じるな」
シャックたちはワイルドローズ島を見渡すと、あのモニュメントから不気味に輝いてるのがはっきりとわかった。”リリーホーク”完成後、マスララの性格が豹変した。ブラック化していたのだ。穏やかさは影を潜め冷酷さや邪悪さが増した。顔下半分を布で覆い、目元はけばけばしくメイクを施し獲物を狙ってるかの如くギラギラと光っている。彼女は(本当に疫病退散になってるのか?)と思っているが、プラスになるエナジーを発するようになれば必ず守ってくれると信じているのだ。
(これはわたくしとミッキー・ネンチ、そしてドクター・オンサイドの力の結集だわ…)
(つづく)