マスララはホークが顔下半分を布で覆っていたことに、
(ミッキーの手紙に書かれていたのは間違いないわ。島の皆もそうすれば厄介な伝染病がなくなるかも…)
やがて彼女は眠りについた。
夜が明け、シャトゥ城の庭園では疫病退散のモニュメントが完成間近になっていた。
(だいぶ”カタチ”になってきたわ)マスララはワクワクしながら眺めていた。
「姫さま、大変です!島のあちこちで人が倒れて…」島の村長であるラーソが慌てて駆けつけた。
「どうかなされましたの?」
(起きることがついに起きてしまった…)
彼女は最悪の事態になったことに気づき、島民全員に鼻と口を布で覆うように伝えた。
「とにかく皆には鼻と口を布で覆うように伝えて。それから、たとえ苦しくても鼻は絶対に出してはいけません」
「はい。了解しました」
ラーソにそう伝えると、ワイルドローズ島の人々は慌てて鼻から下を布で覆い始めた。老若男女、よちよち歩きの赤ちゃんもまでだ。
(これで安心だろう。でもこれで厄介な伝染病がなくなるのか)と半信半疑だった。そして島民たちは顔下半分を布でまとい、島の雰囲気が一変した。どこかおどろおどろしい雰囲気だ。布は白や花柄といったカラフルなものまで様々である。
だが、その一方で一部であるが不満もある。
「あんなものを着けさせて何が守れるというのだ」
「かえって不潔じゃねーか」
「風邪引いてるわけでもないのに馬鹿じゃないのか」
「そうだよ。馬鹿馬鹿しい。自分の免疫力を信じないのか」
「そういうのは無視してるよな。布さえ着けとりゃ無敵、みたいな」と頑なに抵抗する者もいる。
数日後、待望のモニュメントは完成した。城の屋根の高さを超える巨大なモニュメントは青いシートを被せられていた。だが、完成式は行われず、シャトゥ城の住人らごく身近だけでひっそりと祝った。マスララは顔下半分を布で覆った姿で現われ、数人の家来たちやヤーダ三姉妹と一緒にシートを外すと、巨大な目玉のような球体がまるで水晶のように輝いている。中心部の核になっているのはまさに瞳孔そのもので、マスララのデザインによるものだ。彼女は麗しい眼を輝かせながら手放しで喜んだ。三姉妹もその美しさにうっとりしていた。
「まるでマスララさまみたいにお美しいです」
”リリーホーク”と名付けられたそのモニュメントは”リリー”はマスララの好きな花、”ホーク”は恩人でありヤーダ三姉妹の母親の名前からとられている。
(きっとワイルドローズ島の人々を守ってくれるだろう)と期待を寄せた。側にはミッキー・ネンチやドクター・オンサイドもいた。やはり彼らも鼻から下を布で覆っていた。オンサイドはビジネスバッグを下げていた。
(これで疫病退散できる。あの苦しい布生活から解放されるといいのだが…)
シャトゥ城の高さをはるかに超える巨大な”リリーホーク”の圧倒的なインパクトはもはやこの島の新しいシンボルとなりそうだ。
「はじめまして、マスララさま。私はドクター・オンサイドと申します」マスララとドクター・オンサイドとは初対面だ。
「こちらこそはじめまして、オンサイドさん。思ったよりお若い方なんですね」
彼は腰の低い落ち着いた感じの青年だ。
「こう見えてもたくさん発明してるんです。賞を取ってもおかしくないくらい」とミッキー。
「私が発明したものです。とっておきの自信作です」オンサイドがバッグから取り出したのは、自身が発明したヒヨコ型のロボットだ。
「かわいい!」マスララはそのロボットをすっかりお気に入りのようだ。
オンサイドはそれを手のひらに乗せて
「羽を使って飛ぶこともできます。あと言葉も理解できます。”ご主人様”になついたら思い通りにできます」
「素晴らしい発明ですね。ぜひペットとして…」
「申し訳ございませんが、これは先生に差し上げることになってます」
このヒヨコ型ロボットは”ヒーナ”と名付けられている。小さいながらも凄い能力を持っているのだ。飛べるのはもちろん、諜報や盗聴器としての役割も持ち、少しながらだが会話もできる。
「あら、残念だわ。そうなればわたくしの思うがままだったのに」とマスララは悔しがっていた。
(このモニュメントに”ヒーナ”の能力を注入すれば…)ミッキーとオンサイドはひそかに企んでいるのであった。それにはマスララには内緒にしている。
「先生、もしものことがありましたら、ヒーナを操ってください。決して他人には貸さないでください」
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
(つづく)