翌朝ー

 ワイルドローズ島は雲一つない青空に柔らかな日差しが注いでいる。シャトゥ城の朝は早い。マスララはじめ家来たち住人はすでに起きていた。だがヤーダ三姉妹はまだ夢の中だ。すると、

「ふぁ~よく寝た。マスララさまおはようございます」と、ようやく起床。

「いつまで寝てたの!時計を見なさい!のん気に寝てる場合じゃないでしょ!」

「だって部屋には時計がないから…」

「言い訳は聞きたくないわ」彼女たちはマスララの部屋の時計を見た。

 お姫様の部屋らしく白でまとめられたインテリアにガラスのテーブル、フカフカのベッド、きらびやかなシャンデリアといったゴージャスさ。三姉妹の部屋とは雲泥の差だ。

(こんなお部屋で過ごしたかった)と、三姉妹は羨ましそうに見つめていた。

「ごめんなさい。明日からきちんと起きます」

「謝れば済む話じゃないでしょ。何度も同じことを繰り返さないでね」と、マスララは呆れていた。そこで彼女は、三姉妹にシャトゥ城の大掃除をしてもらうことにした。

「では、罰としてお城の大掃除と草むしりをしてもらうわ。朝ご飯はパン一個よ。これで我慢してね」

「えーっ、それだけじゃ倒れちゃうよ」三人はとたんに元気がなくなった。

「つべこべ言わずにさっさと始めなさい!」パン一個というみすぼらしい朝食の後、シャトゥ城の大掃除と草むしりを始めた。

(こんな広いお城を私たちだけでで掃除するのはとても無理だよ。これだけ広ければ一日では終わらないよ。誰かに手伝ってもらわないと…)

「そういえばマスララさま、髪の毛一本落ちただけでもすごく怒るんだもん」

 いつマスララの”カミナリ”が落ちてこないように、数多い部屋にだだ広い庭の隅々まで掃除をする。さらに庭には無数の雑草が生えている。それらを抜くのはかなり大変だ。手ではなかなか抜けない草もある。三姉妹は幼く小さいながらも精一杯頑張った。終わった頃には日が暮れていた。

「もう疲れた~それよりお腹すいちゃった」とみんなバテバテだ。

「あら、お疲れ。喧嘩しないで仲良くできたでしょ」マスララは三姉妹を労う。

「もう勘弁してください。疲れました」三人は口を揃えて言った。

「あとでちゃんと掃除ができてるか見てみるわよ」

(どうかマスララさまの”カミナリ”が落ちてきませんように…)

 その時、城の入り口にある呼び鈴が鳴った。

(どなたかしら…)

 マスララは城の扉を開けた。やってきたのは三姉妹の母・ホークだった。

「こんばんは。夜分に失礼いたします。娘たちは元気にされてますか?」

「ホークさんこんばんは。いつもお疲れさまです。お嬢さんたちは元気ですよ。ちょうどよかったわ。お嬢さんたちを連れて帰ってほしいのです。わたくしはもう限界です。とても面倒は見きれません」

「マスララさまお疲れ様です。大変な思いをなされてるのですか。さぞお困りでしょう。子育て経験のない貴方にお願いをしたのが無理がありました。出来るなら私が連れて帰りたいのですが、ナースとアクセサリーデザイナーを掛け持ちしてる身にはきついです。主人が帰ってくるのは三年後ですし、私も主人も親を亡くしています。近所にも頼れる人がいないし…」とホークは悲し気な表情で話した。

(だからシッター雇えば、と)

「そうなんですか。ご主人が帰られるのはまだまだ先なんですね。でも、わたくしはお嬢さんたちを叱ってばかりで…今朝も遅くまで寝ていたからお城の大掃除をさせました」

「叱るのは遠慮しなくてもかまいません。私だってマーサがいなくなってから𠮟ってばかりですから。それにしても大掃除をしてくれていたとは、今ごろぐったりでしょう」

「はい。弱音吐かずに頑張ってくれてましたよ。疲れ切って休んでますよ。だけど、わたくしが母親代わりにはなれない。最初からわかってたはず…」マスララの眼から涙があふれてきた。今にもこぼれてきそうだった。

「ごめんなさい。私がこの娘たちに言い聞かせておいたのに、喧嘩ばかりしていたのですか。困ったものですね。貴方に手を焼いていたとは知りませんでした」ホークは泣きながら土下座をした。

「もういいですよ、ホークさん。貴方のせいじゃありません。ところで、お顔どうなされたのですか?包帯が巻かれているから怪我でもしたのかしら」

「うちの病院では医師やナースはもちろん、外来患者やお見舞いに来られる方にも着けてもらっています」

(そういえばミッキーの手紙にも書かれてあった。もしかしてそうかもしれない…)

「これで伝染病が広がらないでしょう。大勢の患者さんが伝染病の診察に来られています。高熱や咳で苦しんでいる患者であふれています。幸いうちではこれのおかげで院内感染は起きていません」

「そうだったのですね。確か友達からの手紙にも書かれていたわ」

「お友達?」

「ええ。ミッキー・ネンチという町医者です」

「私、昔は先生の診療所で働いていました。まさかお友達でしたとは。これも不思議なご縁ですね」

「偶然ですよね。実は我が城に疫病退散のモニュメントを建てている途中で、彼は協力者になってくださったのです。後に彼から届いた手紙に”(ワイルドローズ島の皆に)鼻と口を布で覆うことだ”と書かれていました。あながち間違っていませんよね」

「先生とはどういうご関係で?」

「幼馴染です。ずっと音沙汰なかったけど、モニュメント建設の件でこの間会ってきました。疫病退散のモニュメントを作ってほしいと頼みました」

「なんて心強いのでしょう!素晴らしいです!出来上がるのが楽しみですね」二人は出来上がるのを心待ちにしている。

「それでは私は夜勤がありますので病院に向かいます。引き続き娘たちをよろしくお願いいたします」

(ナースのお仕事って想像以上に大変なのね…手がかかるお嬢さんたちの面倒が見れないのがわかったわ。頼れるおじいさんおばあさんもいないし)

 ホークは夜勤のため、自分の職場に向かった。

 三姉妹は疲れ果てて自分たちの部屋でぐっすり眠っている。

(ナーツ、キーヨ、ユーカごめんね…)

 

(つづく)