数日後、三姉妹は母・ホークに連れられてシャトゥ城に引き取られた。

「こんにちは。今日からお世話になります」彼女たちはマスララに挨拶をした。

「私はナーツです」

「私はキーヨ…」

「キーヨ、ボソッとしてないでちゃんと挨拶しなさい!」ホークは元気がない声で挨拶するキーヨを叱る。

「あたしはユーカ。おばちゃん、よろしくね」

「こら、ユーカ。おばちゃんではなく”マスララさま”でしょ。それからタメ口しないこと」

「ごめんなちゃい(てへぺろ)」

「ユーカったらもう!」ホークはあきれ顔だ。

「今日からわたくしはあなたたちのママよ。みんなわたくしの言うことをちゃんと聞いてちょうだいね」マスララは三姉妹に約束をした。

 母・ホークも

「おばちゃん、いやマスララさまの言うことをちゃんと聞きなさいよ。それから喧嘩せず仲良くするのよ、わかった?」

「うん」

 マスララはシャトゥ城の居候となった三人を一番粗末な部屋へ連れて、そこで暮らすことにさせた。

「この部屋がちょうど空いていたから、これからはここでみんな仲良く過ごしましょうね」

 晴れてシャトゥ城の”一員”になった彼女たちは粗末は部屋にもかかわらず喜んでいた。しかし、そこにあるのは照明が裸電球にベッドが一つだけ。それもフカフカでなく、ベニヤみたいな薄い板張りにせんべい布団が敷いてあるものだった。当然ストーブなどの暖房器具もなく、彼女たちは寒さでガタガタ震えていた。ここの気温は氷点下になることもザラである。

(これじゃ凍えじんじゃうよ…お城の暮らしに憧れてたのに、こんなにひどいとは…まるで冷蔵庫にいるみたい…おうちの方がよかった…)

 夢と現実のギャップに、三人は絶句と後悔の念に駆られていた。これから地獄の日々が待っていることを彼女たちには知らされていない。

 

 シャトゥ城では、ヤーダ三姉妹を迎えて数週間が経とうとしている。今日も大騒ぎ、彼女たちの部屋では相変わらず喧嘩やいたずらが絶えない。

「こらー、また喧嘩して。あなたたち、いい加減になさい!」とマスララが部屋にやってきて甲高い声で三姉妹を叱った。だが、彼女たちは聞く耳を持たない。

「うるさいわね。勝手に部屋に入ってこないで!」

(何様なの、この娘たち…)マスララは怒りを抑えるが、

「おばちゃんのお顔、変!だってパンダみたいなおめめして面白いもーん」と、末娘のユーカがからかうと、

「”おばちゃん"はないでしょ。こう見えてもうら若き乙女よ」とマスララは怒るのを忘れて笑っていた。

(ムキになってたら、よけい馬鹿にするものね。わたくしも大人ですもの)

 細身のボディーに目元ギラギラのけばけばしいメイク、何せ彼女はアイメイクの達人で、シャトゥ城でメイクアップのレッスンを開くことがある。怒ると髪がクリのイガのように尖り、これで攻撃することもある。

「言うことを聞かないとママにお迎えに来てもらうよ」

「やーだね、寒くてもずっとここにいたいもーん」とユーカ。

「私、おうちに帰りたい」とキーヨ。

「マスララさまの言うことを聞くって約束したでしょ」ナーツは二人の妹の機嫌を取る。

「さすがお姉ちゃんね。ったくワガママなんだから、キーヨもユーカも。約束はちゃんと守ってよ」

「はーい、マスララさま」

(ほんと、世話の焼けるガキどもね。早くお迎えに来てほしいわ。だいいち子育て未経験のわたくしに任せたのが間違ってたのよ)

「私たちはもう寝ます。おやすみなさい」三人はやがて眠りについた。

(寝顔は可愛いのね…わたくしもお休み…)

 

 

(つづく)