優しく、しっかり者のマーサに対し、世話の焼ける妹たち。まだ赤ちゃんだったユーカにミルクをあげたり、おむつ替えもしてくれていた。また食事つくりも彼の仕事だった。得意料理はオムレツとサンドイッチだ。レパートリーは少ないとはいえ、妹たちは文句を言わなかった。犬も飼っていたため兄妹で散歩に連れてっていた。その犬も天国に召されている。
だが、頼りになる兄亡き後は姉妹仲は悪くなる一方だ。特に末っ子のユーカはワガママな上に毒舌家でもあり言いたいことをズバズバ言う。本人は悪気はないつもりだ。歯並びが悪くコンプレックスである。好きな食べ物は母が作ってくれる卵サラダだ。
部品工場で働く父・ケーゾは海外で長期出張中。母・ホークは看護師で以前はミッキーの診療所で働いていたが、かつて彼の父が院長を務めていた病院で昼夜問わず働いている。また手先が器用で、絵画とビーズアクセサリー作りが得意。ビーズアクセサリーは個展を開くほどの腕前で、自宅の一室は”ビジュ・ホーク”というアトリエになっている。時々教室を開き、近所の人やナース仲間に教えたり、個展を開いたり、出来上がったアクセサリーを売って収入源にしている。SNSにも自作のアクセサリーを上げ、流行の”○○映え”のおかげでフォロワーも上昇中だ。仕事休みや昼休憩にコツコツ作り、ある入院患者にプレゼントしたところ、とても喜んでくれた。ホークは(これで元気になってくれたら…)と入院患者やその家族にプレゼントしたり、病院の待合室に飾っている。外来患者にも好評だ。
彼女がマスララと出会ったのは、自宅のアトリエで教室を開いてる時だった。きらびやかな物が好きなマスララはビーズアクセサリーの魅力にとりつかれ、すっかりお気に入りとなった。実は彼女が着けているティアラやドレスに散りばめられたアクセサリーはホークの手によるものだ。
(わたくしのように美しいアクセサリーの数々…しかも独学であれだけ作れる才能があって羨ましい。でもわたくしは付ける側がいいな。”何とかに真珠”じゃないけど、そんなこと言わせないのだから)
マスララのツンツンとんがった髪、色白でスラリとした体型、きらびやかなドレスに飾られたビーズアクセサリーはダイヤモンドにひけを取らないくらいに輝き、頭にまとったティアラも彼女の魅力をアップさせている。
(ホークさん、ナースだけでなくアクセサリーデザイナーでもあるのね。二足のわらじも大変なのね…だからお子さんたちの面倒が見られないのかも…)
多忙なホークは仕事の合間を縫って三人の娘とともにシャトゥ城に行った。
「マスララさま、お久しぶりです」
彼女はマスララに娘たちの面倒を見てほしいとお願いをしたのだ。
「ホークさん、お忙しい中ありがとうございます。お嬢さんたち、あれから女の子らしくなって可愛さがさらに増しましたね」
マスララは久しぶりに見る娘たちの可愛さに眼を細めた。そわそわと落ち着きはなかったものの、可愛さが勝っていた。
「無理を承知でお願いしたいのですが…」
(え?まさか?)
「実は…娘たちの面倒を見てもらいたいのです」
「いきなりですか?子育てをしたことがないわたくしにですか?申し訳ありませんが、とてもこの娘たちの母親代わりになれません。ごめんなさい」
「ご心配なさらないでください。それまでに私がしっかり言い聞かせておきます」
(いったい何を考えてるやら…)
「そうですか、仕方がありませんよね。貴方もお仕事でお忙しい上に、頼れる家族や隣近所がいないですもの。シッターを雇うつもりはないのですか?」
(確か、ご主人長期出張中らしいと…)
「シッターさん一度雇ったことあったけど、いま一つ頼りになりませんよ」
マスララは数少ない友人の一人として、ホークのお願いに応えた。それが縁で娘たちをシャトゥ城に”居候”として引き取られることになった。彼女たちも憧れのお城暮らしが夢でなくなったことに大喜びだった。
「この娘たちをよろしくお願いいたします。何かとご迷惑をおかけしますが、もし喧嘩やいたずらをしたら遠慮なくお叱りください」
「わたくしのような子育て経験がなくてもよければ、お引き取りします。ところでマーサ君、まだ小さかったのに妹さんたちの面倒を見てくれて大変でしたね」
「妹たちには何かと手を焼いていましたよ。マーサは小さいながらも学校から帰るとご飯を作ったりと、よく面倒を見てくれて感心しました。我ながら自慢の息子でした」
「マーサ君は幼いお子さんなのにとてもしっかりしていたのですね。わたくしは子育てしたことがないから面倒見れるのかちょっぴり不安ですけど、できる限りやっていきます」
「どうぞご安心ください。マスララさまならガツンと言ってもらえば言うことを聞いてくれますよ」
(お城で過ごせるなんて素敵だわ…)
三姉妹はワクワクしながら憧れのお城暮らしに眼を輝かせていた・
(つづく)