これから始まるお話は静かな青い海に浮かぶ二つの小さな島のある出来事ー
その自然豊かな二つの島、まるで赤いじゅうたんを敷き詰められたように真っ赤に染まったルージュ島に建物を始め白でまとめられた美しい景観のワイルドローズ島。この赤と白、対照的な二つの島は”マロンブリッジ”という橋で繋がれており、車で渡ることができ島の人々は互いに自由に生き来している。
彼らは争いごとを嫌い平和で穏やかな日々を過ごしていた。どこかしこも明るい笑顔であふれ貧しくても心は豊かであった。
ところが、ある出来事がきっかけでルージュ島とワイルドローズ島は敵対関係になってしまった。
どうやら、ある国で謎の伝染病が流行り、大勢の人々があちこちでバタバタ倒れ命を落としていくところをTVニュースで流していた。
(もしかしたら、こっちまで広がりそうだ…)
ワイルドローズ島の人々に不安と危機感が募り、シャトゥ城のマスララ姫は幼なじみであるミッキー・ネンチと連絡を取り合い城で会う約束をした。しばらくして彼はシャトゥ城にやってきて、
「ミッキー、ちょっとお願いがあるの。協力してくれないかしら」
シャトゥ城はワイルドローズ島のランドマーク的な存在で白亜の城をイメージし、広い庭園には色とりどりの花が咲き乱れ、湖のような池は青く澄み水面はまるで鏡のようにキラキラと輝いている。
シャトゥ城の姫・マスララは、マスカラを擬人化させたもので、マスカラのブラシのようなツンとした髪とビーズでできたティアラを被っている。色白で細身、あちこちに散りばめたアクセサリーがついたドレスがお似合いだ。
住人には彼女の他に数人の家来がいて、食事や雑用を任されている。
「庭園に疫病退散のモニュメントを作ってほしいの」
マスララは自分の願いが叶うために、ミッキーにある提案をした。
彼はこの島で小さな診療所の開業医だ。医師になるまでは某研究員だった。父も医師で、島外でいくつかの病院や診療所を経営していた。その後故郷に戻り、島にただ一軒の病院の院長を務めていた。だが父が亡くなり、息子であるミッキーが跡を継ぐはずだったが、本人にその意思はなかった。独立して自分の診療所を開きたかったのだ。その病院は父の勤務医時代の後輩が院長を務めている。しかもミッキーが本業としているのは物書きでベストセラー作家である。作品は数多く、”迷探偵ぽあろ”はベストセラーとなった。”ウンタン”という犬を飼っており、口元を布で覆っている。彼いわく「よだれが多く、落ちてこないようにするため」だそうだ。猫が苦手でアレルギーがある。
「いきなり言われても困るよ。そんなものを建てる余裕はないよ。だいいちそれでご利益になるのかい?」
「あなたお医者さんでしょ?順風満帆なんだからできるんじゃないかしら」
「悪いけど協力できないよ」
「そこは何とかできないの?あ、そうだわ。あなた売れっ子作家じゃない?印税がガッポリ入ってきて全然余裕でしょ」
「印税なんてたかが知れてるよ。そんなものあてになるものか。疫病除けのモニュメント作っても意味ないと思うよ」
「あら、ガッカリね…」マスララはガックリと肩を落とした。しかしミッキーは、
「例えばどんなものにしてほしいんだ?そういえばこのお城、庭がすごく広いね…そこにドーンと建てるとか?」
「そうなの。お庭に建てて一目でわかるようなものをね。水晶にようにキラキラして、お日さまの光が当たるとピカーッと不思議なパワーが出るの」
「そういえば原因不明の伝染病が蔓延ってるらしいね」
マスララの夢でもある巨大なモニュメントを作るため、ミッキーは数少ない友人として彼女の要求に応えた。
「仕方ないな。そこは何とかやりくりするよ。それと僕の”相棒”にも手伝ってもらうよ」
(相棒…?いったい誰だろう…)
「ありがとう。さすがわたくしの友達ね」
ミッキーは照れくさそうに微笑んだ。そして「午後からの診察があるので」と自分の診療所に戻った。
(つづく)