還暦以上の方は「粉末ジュースの素」をご存じではないだろうか?私は還暦ではないが、物心ついたころにはまだあったと憶えている。

 それが爆発的に売れた1960年代に、各メーカーが製品を出し合って食料品店や菓子店の店先に並んでいた。あるメーカーはテレビCMや雑誌・新聞広告などのメディアに露出して広く認知され、一躍トップメーカーに。

 「一杯分5円」というお求めやすい価格もさることながら、子供の小遣いでも十分に買えるもの魅力的。水道水に溶かして飲むより、指先に粉をつけてペロペロなめていたのが多かったのでは?そしたら舌が真っ赤赤に着色してて、人工着色料がガッツリ使われてたんだろうな。

(そういえば、私も駄菓子屋で買ってきたものでそれをやってたな…)

 それだけでなく、「ジュース」とは名ばかりで当然果汁は入っておらず、あらゆる添加物のオンパレード。着色料・甘味料・香料…原材料や賞味期限の表示もなく、いわゆる”添加物まみれの粉”だったことを。

 それなのに「厚生省(当時)認可特殊栄養食品」と書かれてビタミンやカルシウムを添加されている。添加物がバシバシ入ってるのに”栄養食品”とは何なのか。厚生省は昔からゆるゆるの組織だったのがよくわかる。今でもゆるゆるで発がん性の疑いのある添加物を平気で使ってるのだから。食品安全の基準なんてないのだろうね。

 特に甘味料に関しては、当時は砂糖が高価な上に夏期は湿気でベタづいたため返品が相次いだとか。各メーカーは苦心の末に思いついたのが砂糖の代わりに湿気に強いブドウ糖を使うことで製品化に成功した。さらに砂糖に比べてはるかに安価だった人工甘味料(主にチクロ、他にズルチン・サッカリンなど)が原料に使用されることで製造コストが抑えられ、その恩恵で店頭価格も安く、子供にも大人にも人気が定着していた。ようやく物が豊かになり始めた60年代、それでも貧困家庭にとっては魅力的だったのだろう。

 それらにしかり、駄菓子にしかり添加物まみれで体に悪い。でもそんなことは気にせずに口にしていた。安けりゃいい、美味しけりゃいい、お腹が満足すればそれでいい。健康に対する概念もなかったのだろう。それによって病気になった、という話はほとんどきかれなかった。それだけ人やモノもおおらかな時代だったのだろう。

 しかし、1969年FDA(アメリカ食品医薬品局)による調査発表を皮切りに前述の人工甘味料が人体にもたらす悪影響が社会問題化し、ほどなく日本国内でいずれも食品添加物の指定取り消し・使用禁止となった。低価格実現に大きく寄与した人工甘味料が使用できなくなったことで、ほとんどのメーカーが粉末ジュースから撤退し、CMを流して一躍トップメーカーになった某社は経営が傾いた。(後に統合された)

 安価な甘味料(特にチクロ)が人体に悪影響を与えると指摘され、甘味料をサッカリンに替えて製造を続けたが「体に悪い」イメージが払拭できなかった。さらに冷蔵庫や瓶・缶入りのドリンクの普及で、粉末ジュース業界はすっかり”斜陽産業”感が否めなかった。

 かといって、粉末ジュースは完全に無くなったわけではなく、100均や駄菓子屋、スーパーの菓子売り場で一袋10円で売られている。(それもヤバい甘味料が使われている)

 だが、それも近い将来、「昭和の記憶」とともに葬られる運命にあるのだろうか…