「え…?なんで?どうせ外したら笑うくせに」

 「もう!そんな弱気でどうするの?またキレちゃうわよ」

 椿は陽奈の説得も”馬の耳に念仏”なのか、なかなか外そうとする意思が見られない。ますく生活にすっかりのめり込んだため、一生付き合うつもりだろう。それでも陽奈は何としても外させる、という気持ちを曲げていない。

 (このままずっとコンプレックス抱えたまま生きていくのか?そんな人生はつまらないし、希望もない。彼女の自慢でもあるデカ目以外に”新たな発見”が見つかれば希望でもあり自信にもつながる。彼女にはそんな可能性がある)

 「でもいいの?本当に笑ったりしない?」

 「当ったり前じゃん。外せば”もう一人の自分”見えてくるよ」

 ますくを外すことに頑なに抵抗を感じていた椿だったが、数少ない親友のために外す決心をした。彼女の前向きな意思に陽奈は喜びを隠しきれずにいた。やがて照れくさながらもますくを外した。

 「あら、素敵じゃない?それにしてもあっさり外してくれたなんて嬉しいよ。これで微笑んでくれたらなおさら素敵よ」

 椿の口元からは白い歯がこぼれていた。それは自慢でもある目元以上に輝きを放っていた。

 (絶対笑ったりバカにすると思ってた…)

 「そうよ!あんたは”笑顔”という最強の”武器”があるじゃない!いくら目元自慢しても冷たい印象しか受けてなかったよ。それに歯並びも綺麗じゃない!」

 「私、目元以外褒められるの初めて…自慢のデカ目をアピールするためにSNSにアップし続け、フォロワーもたくさんできた。でも、フォロワーが増えると心配したりけなしたりするコメントも増えてきた。やはり眼だけで”可愛い、綺麗”と言われて嬉しい一方、自惚れてたなって。陽奈のおかげで目が覚めたわ」

 またしても彼女の”デカ目”には嬉しさのあまり涙で潤んでいた。

 「ほら、また泣くつもり?涙いっぱい溜めちゃって」

 「ううん、嬉しくて…」やがてボロボロ涙がこぼれ始めた。

 (目ん玉まで流れてきそう)と、陽奈は苦笑いをしていたが、

 「よかった~ほっとしたよ。あんたの笑顔はデカ目以上にキラキラしてるよ。鏡見てごらん?」

 椿は鏡に写った自分の顔に白い歯を見せながら微笑んでいた。目元がチャームポイントとはいえ、冷たく威圧的な印象を持たれたり怖がれたりすると魅力は一寸も感じられない。それにますくしていたらなおさら、たとえ”ボロ隠し”のために着け続けても、ますます依存度は高まる一方だ。

 「笑顔が素敵だから顔の欠点もカバーしてくれるよ。そう、太陽のような笑顔ね!笑顔こそ幸せの近道、ほら言うじゃない?”笑う門には福来る”って知らないの?あんたの笑顔も白い歯も”宝物”だよ?それで幸せ掴めると思うの。デカ目を必死にアピールしてもね、はっきり言って私には何も伝わらなかったよ。ただ怖いだけだし、不幸オーラしか出てなかったよ」

 「そういえば、その言葉聞いたことある…笑顔が宝物か…すごく心に響いたわ。目元って案外どうでもいいと思うようになった。それなのに自分は必死でアピールしてきて今さらバカバカしくなっちゃったな」

 「きっと、あんたも彼氏できるわよ。私も欲しいな」

 「えー??陽奈、彼氏いると思ってた」

 「いたけど別れたよ。付き合ったばかりの頃はガッチリ系のイケメンで笑顔もさわやかだったけど、うじうじ女々しかったの。私の一番嫌いなタイプ」

 「やだなあ、私も苦手。見た目じゃわからないよね」

 「どっちが早くできるかな?」二人は彼氏欲しさに本当の幸せを掴めるだろうか?これだけは運命かもしれない。

 「これでやっと前向きに生きられるわ。あと、お土産もありがとう!」

 「じゃあ、私は帰るね。お邪魔しました~いつか私ん家に遊びに来てね!」

 「うん。その時はお土産も忘れないから!」二人はいろんな話で盛り上がり、椿は満面の笑みで陽奈の帰りを見送った。

 

 

 (続く)