「あら、陽奈、お久しぶり!元気よ」
「めっちゃ元気よ~風邪も引かずピンピンよ!」
「ルンルンだね!私は仕事休みならいつでもいいよ」
「そうねえ、椿の都合のいい日でいいよ」
「じゃあ、今度の祝日にしようか?私が居る場所知ってる?オンボロアパートで一人暮らししてるよ。入口にチャリ置いてるから。場所はまた教えるね」
「了解です!楽しみにしてるよ。椿と会えるの、何年ぶりだろう」
「社会人になってから全然会ってないよね。お互い忙しいし自分のことで精一杯だもの」
「うん、そうだね。手ぶらじゃ失礼だから、お土産持っていくね」
「ありがとう!楽しみにしてるよ。気をつけて!」二人はしばらくENILでやり取りを続けた。
数日後、陽奈はお土産が入った紙の手提げ袋を持って椿のアパートにやってきた。
(ここでよかったのかな?チャリが置いてあるって言ってたし)
「こんにちは~」
(うわっ…オンボロって言ってただけに、すごいわ…足の踏み場のないくらい散らかってるし)
「陽奈、よく来てくれてありがとうね。今片付け中なの」
「いきなりお邪魔してゴメンね。あれ?どうしたの?ますく着けちゃって。風邪でも引いたの?」陽奈はますくをしている椿を見て驚いた。
「違うよ。風邪ならウチには来させてないよ」
(こんな散らかり放題の汚い部屋では風邪でなくても体壊しそう。よりによってゴミ屋敷にしていたとは…)陽奈は呆れていた。
「そうだよね。あんたのお目々はめっちゃデカいから、ますくしてたらさらに引き立つね。それに小顔に見えるもの」
「小顔か~下膨れも二重顎もごまかせるものね。”outstagram"のフォロワーからはコメントいただいてなかったな…」
(”outstagram"やってるんだ。見てみたいな)
「もしかして、部屋掃除にますくしてるのね。私も手伝おうか?余計なお世話かもしれないけど、ゴーグルも着ければ?あんたの自慢のお目々にゴミがもろに入ってくるよ」
椿は部屋の掃除をしながら、陽奈を玄関で待たせていた。
椿のアパートにやってきたのは学生時代の数少ない友人の一人、風見陽奈(かざみひな)だった。彼女も普通のOLで、容姿は椿と真逆で背はスラリと高くモデルを思わせる。顔立ちも全体的にスッキリとした、いわゆる”塩顔”だ。メイクやファッションにも関心が高く、普段から筋トレや食事、生活習慣など体調管理に気を付けている。
「ふう~疲れた~やっと終わった」椿は汗をタラタラ流しながら掃除を済ませ、
「待たせてゴメンね」と、陽奈にコーヒーと茶菓子を出した。
「普段から片付けていれば急な来客でもバタバタしなくて済むのに」彼女は椿の無頓着ぶりに呆れてものが言えなかった。
「部屋片付けられないほど忙しいの?」
「仕事は定時で終わるから、その足で買い物済ませて、帰ったらそのままバタンキューよ。気がついたら一日が終わってた、みたいな」
「お風呂は入らないの?このアパートにはないの?」
「ないよ。しかも近所に銭湯もないし、たまになんとか健康ランドに行くくらいかな。ウチに居るときはタオル濡らして体拭いたり、台所の流しで髪を洗ったり」
「そういえば、スッピンだね。だからますくしてるんだ!ま、あんたの場合スッピンでも”デカ目”は映えるわ」
「ますくしてたら楽だよね、メイクしなくてもいいし。何せ不細工な部分も隠れるから一生外したくないな」
「目ん玉が今にも落ちそうだもんね。”ますく美人”なんだ!それって得だよね?デカ目もしっかりアピールできてるし」
(ますく美人って悪口じゃない…?)陽奈のその一言で、椿の表情は一気に殺気づいた。陽奈を睨みつけ”自慢”を思いきり開くと、黒目周りの余白ができ、しかも血走っていた。
「ど…どうしたの?私、何か気に障ること言ったのかな?血走っているし大丈夫なの?」
(それにしても”余白”が怖い…”キラキラ”じゃなく”ギラギラ”してる…)
「大丈夫よ。つい興奮したらこうなっちゃって。ゴメンね、嫌な思いさせて」
「とりあえず落ち着いて」陽奈は椿をなだめたが、あのインパクトの強い目力が脳裏に焼きついて恐怖心にとりつかれたようだ。
(やっぱ眼しか見せてないって怖い…ホラーものだわ…まるでテロリストみたい…ギョロっと睨まれたら夢でうなされそう…)
(続く)